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『剣遊記番外編T』

第二章 逆襲! 山賊団。

     (1)

 美奈子と千秋と千夏。この三人がこっそりと宴会の席から離れ、誰にも内緒で忍び込んだ場所――そこは村外れを流れる小川沿いにポツンと建つ、小さな水車小屋だった。

 

 備え付けの行燈{あんどん}で照らされた室内は、床に藁{わら}が敷き詰められていた。また、いつもは活発に働いているであろう水車も今は仕事を休めて、静かに三人の闖入者を迎え入れてくれた。

 

 先ほどまでの宴会と比べれば、物静かでとても淋しい限りであった。だけどそれでも、美奈子は大いに満足。なぜならきょう初めて会ったばかりなのに、双子姉妹と三人でいるほうが、なんだかとても心が休まる思いがするからだ。

 

 そんな水車小屋の中。三人は藁の山の上に、そろって腰を下ろした。それから楽しい会話に夢中となった。

 

 ちなみに話題の中心は、やはり魔術関係の話。双子姉妹(千秋、千夏)があれこれと質問を繰り返し、それに美奈子はひとつひとつ、丁寧に答えてあげた。

 

 もちろん質問の回数は、千夏が千秋を上回っていた。

 

「それでぇ、美奈子ちゃんはぁ、いつからそんなにぃ、魔術さんを習ってたんですかぁ?」

 

「そうどすなぁ……うちが物心ついたときにはもう師匠はんの下におって、一からぎょーさん学習してはったもんどすなぁ✍ えろう覚えんくらい、さすがにややこやあらへんけど、とにかく子供んころからってことでおますなぁ✋」

 

「こらたまげたなぁ♋ それやったら千秋と千夏とおんなじ歳んときには、もう魔術師になっとったっちゅうことやな☜」

 

「そないなりまんなぁ☺ まあ、自分で自分をえろう自慢するやなんて、けっこう恥ずかしい気がするもんでおますんやけど♡♥」

 

 などと一応謙遜はしたものの、美奈子は双子から感心をされて、なんとなく満更でもない気分。自分では意識をしていないが、鼻が少々、高めになっていたりして。

 

「うちの場合、師匠はんの教え方も良かったもんやさかい、ふつうの人よりずっと早よう免許皆伝したみたいなんやわぁ☆ そやさかい、攻撃魔術を覚えたんが確か九歳んときでぇ、変身魔術が十三歳やったろうか⛅」

 

「ええぇぇぇ! そんな凄い魔術さん、両方とも使えるんですかぁ?」

 

 美奈子の思いっきり自慢話を興味津々で聞いていた千夏が、ただでさえクリクリとしていた瞳を、さらに大きく見開いた。おまけに妹よりも幾分冷静な感じである千秋さえも、やはり驚きの顔を隠さないでいた。

 

「そりゃ凄いモンやでぇ! 千秋も攻撃魔術は山ん中で見せてもろうたんやけど、こりゃ変身魔術も見てみたいもんや!」

 

「はぁぁぁい♡ 千夏ちゃんも見たいさんでしゅうぅぅぅ♡」

 

「う〜ん……それもまずはええんどすけどぉ……そやなぁ、まずは攻撃魔術からお見せしまひょっか⚿ 昼間に山賊とぎょーさん構えたときの縮小版なんでおますんやけど、このあとから、変身魔術も見せてあげますわ⛳」

 

 これもいつもより、格段に上機嫌な気分のおかげであろうか。美奈子も実は、自分自身のけっこうな積極的ぶりに、ある意味内心で驚いていた。

 

(きょうのうちって、なんやサービス過剰やわぁ⛑)

 

 おまけにいくら無防備で非力、または純粋極まる少女たちが相手とはいえ、うちがこうまで大盤振る舞いしてまうなんてなぁ――とも。だけど、とても明るくて屈託がなさ過ぎな感じである姉妹――特に千夏の笑顔を見てしまえば、そんな些細(?)な疑問など、どこかへ吹き飛んでいく気持ちでもあった。

 

「ほな、攻撃魔術の小型版どすえ⚡ あんまりドえらいのやってもうたらここが火事になってしまうやよってに、まずはこの程度でっせ✄」

 

 それから美奈子は、小声で呪文を詠唱。右手の手の平を上向きにして、前へと差し出した。

 

 そのほんのわずかな空間の中だった。ポッとロウソクの火よりは少し大きめである、炎の塊が浮かび上がった。

 

 この火で薄暗かった小屋の中が、少しだけ明るさを増したような感じがした。

 

「これはうちが、一番最初に教えてもろうた火炎魔術の初歩どすえ☛ これをもっと大きゅうすれば、きょうやったドえらい破壊力を発揮しますさかいに☻☯」

 

「すっごいさんですうぅぅぅ♡ それにぃ、とっても綺麗さんですうぅぅぅ♡♡

 

「へぇ〜〜、大きさもコントロールできるんやなぁ♋」

 

「ほんまおおきに☺」

 

 千夏と千秋から、そろっておだてられる格好。美奈子は続けて、二個三個四個と火の玉を、小屋の空間に生じさせた。だけども美奈子とて、一応は常識をわきまえていた。

 

「これ以上やったらほんま火事になってまうさかい、これでお終いにしときますえ♆」

 

 左手でさっと、空中を掃う仕草。十個となっていた炎の塊が、一瞬にしてすべて消滅した。


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