『剣遊記番外編T』 第一章 出会った三人。 (8) 村人たちが盛大に騒いでいるときと、同時刻だった。
村外れに建てられているボロボロの木造小屋の中で、美奈子に敗れた鱏毒一味が、縄でグルグル巻きにされて閉じ込められていた。
これはまさに、人権クソ喰らえの状態。それほど厳重に縛っているのだから、これで大丈夫とばかり、見張りはひとりもいなかった。
この状況は平和に慣れすぎて、戦意をとっくに放棄している一般民衆の、悲しい性{サガ}であろうか。
だから小屋の中で次のような企みが進行中であるなど、温和な村の者に、想像できるはずもなかった。
「親分……今回は相手を女やと舐めちまってこない有様になりやしたけど、ちょうど舐木野{なめきの}の兄貴が帰ってくるのと重なって良かったでんなぁ☆」
「そやなぁ☻ 俺の弟の舐木野なら魔術を習っとんのやさけぇ、これであの憎ったらしい魔術女に、サシで対抗できるってもんなんやでぇ✌」
薄笑いを浮かべている子分Bの言葉に、親分――鱏毒が踏ん反り返って応じた。もちろん縛られた格好のままでは、いまいちサマにはならなかった。だけど、そんな些細な状況(?)など、お構いなし。
「そやったら、そろそろ山の隠れ家に舐木野の兄貴が到着してるころやから、逃げ延びとう仲間から事情を聞いて、こっちに向かって来やすよね✊✋」
「そやな☎ 先週届いた手紙でも、帰り着くのはきょうぐらいやと書いとったんやからなぁ☺」
全国――いや全世界の悪党の定番であるが、鱏毒には凄腕の身内がいるらしい。
事実、暗い夜の山道を、月の明かりだけを頼りに無言で下りる集団が、密かに村へ接近していたのであるから。 (C)2013 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |