『剣遊記 超現代編U』 第三章 真夏の浜辺の逆ハーレム? (8) 早い話が、ナンパ野郎の出現である。しかもどうやら、ここでもおれの存在は無視された。誰もおれたちのことを、カップルとは思わないのだろうか。これはこれで、大いに腹が立つ。
「えっ、ぼく?」
それでも今では、すっかり『ぼく』の自称が心身ともに馴染んでいる孝治であった。だけどこれがまた、ナンパ野郎の好奇心を、大いに揺さぶるものらしかった。
「うひょーーっ♡♡ こりゃまた『ぼくっ娘{こ}』のご登場かよぉ♡☻ ポニーテールも合わせて、ほんまもんに可愛いじゃねえかよぉ☻♪✌」
こんなイカれたC調声を上げるナンパ野郎は、アロハシャツ(でっかいハイビスカスの絵が描かれている)を着て頭髪を金に染めた、実に典型的な夏男。体全体も、コンガリと日焼けをしているし。
「ねえ、ねえ、君たち、女の子だけで海に来てるの? 良かったら僕といっしょに泳がない✌☻♪」
『たち』とこのナンパ野郎が言ったのは、孝治の妹ふたりもターゲットにしている――と言うことだろうか。中学生である友美ちゃんならまだ理解できるが、見た目にも小学生丸わまりである涼子ちゃんにまで目を付けるとは、もしかしたらロリコンの気でもあるのか(おれも人のことは言えないが☻)? だけど肝心の孝治自身は、ナンパ野郎の出現に、なんだかピンときていない感じ。
「い、いや……ぼくたち三人だけじゃなくて、友達も十一人いっしょなんだけどぉ⛔ ここにもぼくの友達がいるし……☁」
ようやくで孝治が顔の向きを変え、おれの存在を示してくれた。ところがナンパ野郎ときたら、おれにあからさまな嘲{あざけ}りの目を向けてくれただけだった。
「ほう、君はある意味のキープ君だね☻ まあ君は荷物運びだけ務めて、彼女たちのことはこの僕に任せたまえよな✌」
「けっ! なんにも知らねえくせに、今に泣きをみることになるぜ✄」
「ん? なんか言ったか☠」
「いや! なんにも☢」
正直ケンカの腕力に自信の無いおれは、つまらない小言に突っ込まれて、一瞬ビビッた。つまりナンパ野郎は、それだけおれを舐めきっていたのだ。それは次の野郎のセリフが実証していた。
「まあ、おまえはアイスクリームだけ持って、僕たちについて来な☕⛹ この子の友達とやらも、この僕がみんな引き受けるからさぁ✄」
ほんとのほんとにあとで吠え面かいても、おれは本気で知らねえからな――と、今度は声にも出さないようにして、おれはこっそりとつぶやいた。
このとき友美ちゃんが、おれにこそっとささやいてくれた。ナンパ野郎には聞かれないようにして。
「お姉ちゃんったら、まだ和布刈さんたちとは友達感覚でいるみたいね⚠ でもこれを知ったら、みんなショックを受けちゃうかもねぇ☠」
「おれもそう思う☁」
おれは友美ちゃんの言葉にうなずいた。もちろんこの場で真実を話す気など、おれもそうだが友美ちゃんにも(涼子ちゃんも同じだと思う)さらさら無いだろう。よっておれたち三人(おれ、友美ちゃん、涼子ちゃん)、このまま黙っておくことにした。この間にも真実を知らないであろうナンパ野郎は、ひとりで勝手にテンションを上げていた。
「それじゃあ、僕を君たちのお友達のとこまで連れてってくれない? みんなまとめて楽しいことするからさぁ☀☀」
このとき再び、友美ちゃんがおれにささやいた。
「あの人完全に、わたしたちが女の子だけのグループだって勘違いしちゃってるわよ☢ まあ、お兄ちゃん……じゃないお姉ちゃんがはっきり言わないから悪いんだけどね⛑ もうわたし、なにが起きても知らないから⛔✄」
「おれもそれに同感だな⚠ この先の責任、一切負わねえことにするよ☻✄」
おれも再び、友美ちゃんと涼子ちゃん相手にうなずいた。無論この間も、孝治自身は能天気の極みにいた。
「うん、いいよ♡ ぼくの友達に会わせてあげる♠♣」
孝治は自分が言っている言葉の意味が、わかっているのだろうか。とにかく、コンビニでのかき氷調達を終えた孝治たち三姉妹と付き人であるおれには、さらなるよけいなおまけが付く話の流れとなったわけだ。 (C)2018 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |