『剣遊記 超現代編U』 第三章 真夏の浜辺の逆ハーレム? (16) 「もう! じれったいわねぇ!」
ついにこの事態を見かねたのか、妹の友美ちゃんがステージ上に駆け上がった。妹である涼子ちゃんの右手を握ったままで。
「はいはーーい! 姉に代わって、わたしが質問を受けまぁーーっす☀」
今さら言うのもなんだが、このコンテストでは、出場者に付き添いがいてもOKとされていた。初めはそこまでしなくてもいいや――と思っていたおれたちだけど、元兄で今は姉である孝治のピンチを目の前にして、妹がとうとう助っ人として参上する気になったようだ。
「おや? あなたは☞」
いきなり登場した中学生と小学生に、最初MCは目を丸くしていた。それとは逆で、友美ちゃんの態度は、まさに堂々の貫禄ものだった。
「はい☀ 孝治お姉ちゃんの妹で友美といいます✌ そしていっしょにいるのがまた妹で、涼子っていいます✋」
「涼子でーーっす♡」
右手でピースサイン✌をするなど、こちらは凄いお茶目。
「するとあなたたちは、お姉ちゃんの応援ってわけですね♪ 三姉妹そろって、見事な美少女シスターズですなぁ♡♡」
おれのいる場所からは遠いのだが、MCの目がスケベな光を放ったことが、実によくわかった。
「それで、司会者さんの質問に、わたしから答えてあげます✐」
「質問って? ああ、さっきぼくが訊いた名前のことですね♐」
さすがは司会者を務めるだけのことはある。アロハシャツのMCは、すぐに友美ちゃんが言いたいことを受け入れてくれた。
「じゃあ、早速聞かせてもらおうかな♠」
「はい、これはお父さんから聞いたお話なんですけど、父は初め男の子がほしかったので、姉が生まれる前から『こうじ』なんて言う、男の子名しか考えてなかったそうなんです⛑ でも生まれたのが女の子だったんだけど、今さら決めた名前は変えられないとか言って、そのまま正式に『孝治』になっちゃいました✌ だもんだからぁ、自分の言い方も『ぼく』になっちゃったんですぅ☻✌」
とたんに会場全体から、ガハハハハッと大爆笑の嵐が巻き起こった。ついでにMCも、腹をかかえて笑っていた。
「がはははははっ☺☺ でもどこか感動する話だよねぇ☻☻」
きちんと仕事をしろ♨
そんな笑いの嵐の渦の中、友美ちゃんが涼子ちゃんに同意を求めていた。
「ね、そうよね✊ 涼子☛」
「うん☆」
涼子ちゃんもすべてを了解しているのか、それとも場の空気を読むのがうまいのか、こちらも元気いっぱいでうなずいた。
「そ、そうだったの……♋」
肝心の孝治ひとりが、なんだか腑に落ちない顔をしているのが、客席から見てむしろ滑稽なくらいだった。
このあとほとんど、友美ちゃんの独演会みたいな感じで、孝治の出番は進行していった。観客席にいるおれたちは、やっぱり無責任にささやき合った。
「さすが友美ちゃんだぜ☕ あのアドリブで観客も審査員の心も、ガッチリつかんだって言うもんだぜ✊ なあ、そう思うだろ✌」
和志も大いに褒め称えているが、しかしこれでいいのだろうか? おれはちょっと疑問を感じた。
このおれの疑問が、本当に杞憂で済んだらいいんだけどなぁ☁ (C)2018 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |