前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記11』

第二章 グリフォン救済計画。

     (9)

 涼子の興味しんしんはともかく、問題のノールが、帆柱に苦笑いの口調で応えていた。やはりヒョウの表情ではわかりにくいので、まさに口調から察してである。

 

「ああ、自分でもときどき行き過ぎだとは思うがな……しかしこればっかりは、どうしてもゆずることができん✄」

 

 孝治と友美は打ち合わせの段階で知っているのだが、帆柱とノールの依頼人は、どうやらお互い古くから見知っている間柄と言えそうだ。それを見た涼子が、孝治にこっそりと耳打ちで尋ねた。

 

『ねえ、今度の仕事がグリフォンの輸送ってのはわかっとうとやけど……帆柱先輩とあのノールのおじさん……名前だけは聞いとうとやけど、折尾伸章{おりお のぶあき}って言ったっけ……ふたりは知り合いみたいっちゃけど、いったい何モンなんやろっか? なんか東京モンらしかっちゃけど、ほんなこつ高貴な人ね?』

 

 孝治はこれを、鼻で笑ってやった。

 

「ああ、それもまだ言うてなかっちゃよねぇ♥ 涼子は今回もそうっちゃけど、打ち合わせんとき、いつもどっかで遊んでばっかやけ、いつもなんもわかってなかよねぇ☀☆」

 

『だってあたしって、だらだらした会議が嫌いなだけっちゃよ!』

 

 幽霊娘がムカついたらしく、両方のほっぺたをプクッとふくらませた。もちろんその姿は、孝治と友美以外には見えていない。そこで周囲がさらに気づかないよう、孝治は静かに説明を続けてやった。

 

「名前は涼子ももう知っちょうけど、あのノールの人は折尾伸章さんっちゅうて、職業がキャラバン商人で帆柱先輩とは同期になる人っちゃよ☆ それがどげな理由か知らんとやけど、野生動物なんかの保護管理官も務めちょって、きょうみたいにグリフォンなんかを自然に戻す事業なんかもやっちょうっちわけっちゃよ✍」

 

『へぇ〜〜、とにかく偉か仕事ばしようっちゅうことやね☝ やけん、そこんとこば高貴っち言いようわけっちゃね☟』

 

「そげんこと♡ やきー、わたしも尊敬しとうとよ♡」

 

 このとき涼子に応える友美は、なぜだかうっとりの瞳で、今回の依頼人――折尾の後ろ姿を見つめていた。野球帽をかぶっているため、後ろ姿だけならふつうの人間と、そう変わりはないように見えていた。

 

 その様子を見た孝治も、ここでひと言。

 

「ま、まあな☁ 確かにあの野郎は偉いっちゃよ☠」

 

『あらぁ? 急に『折尾さん』から『あの野郎』に呼び名変更ね?』

 

「な、なんでんなか!」

 

 涼子からの鋭い指摘に、孝治はあらぬ方向に瞳をやって、わざとらしく口笛を吹いてやった。


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system