『剣遊記11』 第二章 グリフォン救済計画。 (7) この一方で、美奈子たちの気さくな会話(?)には、興味なしの感じ。涼子は見知らぬ男たちの存在を、大きく気に懸けている様子でいた。
『ねえ、あん人たちって、誰ね?』
涼子は自分の体重ゼロを良いことにして、孝治にちゃっかりと肩車をしていた。その涼子が右手人差し指で差す先には、黒崎と帆柱。それから頭に白い野球帽をかぶっている男性と、少々汚れた服装でいる、やはり男性ふたりがいた。恐らくこの五人で、再びなにかの打ち合わせを行なっているのだろう。現在の孝治と涼子の立ち位置からでは、三人の顔がよく見えないところであるが。
「ああ、あん人たちけ☜」
涼子と同じ方向に目線を変え、孝治はポンと両手を打った。
「涼子は初めの打ち合わせんとき、現場におらんかったけねぇ☛」
幽霊と話しているところがバレたらヤバいので、孝治は自分の左横にいる友美を相手にしながら、涼子の問いに答えてやった。実は友美もすべてを知っているのだが、そこは長い付き合い同士。孝治に波長を合わせてくれた。
「まあ、言うてみれば、今回の仕事の依頼人ちゃね☆」
「そうそう♠ それも重要な役目ば背負った、高貴なお方でもあるんよねぇ♡」
『こうき? なんね、それって? それにいっちょも、そげな感じがせんとやけど♋』
「やきー、それはやね……☆」
さらに友美が涼子にそっと小声で、今回の仕事について、教えようかとしたときだった。それよりも早く、沙織が泰子と浩子を伴って、黒崎たちの会話に加わった。
「健二お兄様♡ もしよろしかったら、今のうちにグリフォンを見せてほしいんですけど♡」
『グリフォン?』
その動物の名前であれば、もちろん涼子も知っているであろう。滅多に拝見できない珍獣中の珍獣なのだが、その名が出たとたんだった。涼子が孝治の肩からふわりと舞い上がり、まっすぐ沙織たちの頭上まで浮遊した。
『ほんまもんのグリフォンなんけ☆ あたしも見たかぁーーっ!』
未来亭の正面出入り口前で三台用意されて順番に並んでいる馬車――もとい牛車のうち、最後尾の一台だけ、厳重な幌で荷台部分が周囲から完全に閉ざされていた。その状況から察してグリフォンは恐らく、三台目の牛車に載せられているのだろう。ところが依頼人である白い野球帽の男性は、なんと沙織の申し出を、口調はやわらかだが、はっきりと断る態度にでた。
「大変申し訳ないが、グリフォンを今お見せすることはできない✋ 輸送中は人の姿を一切見せないつもりにしているので⛔」
これは一種のお嬢様育ちであろう沙織にとって、まさに青天のへきれき的事態と言えるかも。
「そんなぁ〜〜☂ いったいどうしてなんですかぁ?」
情け容赦なしで願いを却下され、沙織がもろに落胆の表情を浮かべていた。同時に涼子は、野球帽男の出身にも、すぐに気がついていた。
『あん人……しゃべり方からして、関東のほうみたいっちゃね✍』
「うん、そうっちゃよ☞」
すでに面会済みである友美が、涼子に軽くうなずいた。
それはそうとして、依頼人の男性が、一応紳士的に理由を説明してくれた。もちろん孝治と友美と涼子も、沙織といっしょになって聞き耳を立てた。グリフォン非公開の理由は、孝治たちも、今初めて聞くからだ。
「そりゃ誰でもグリフォンに興味があるとは思う✍ しかし、グリフォンを野生に帰すためにはどうしても必要なことなんでね✊ 決して人に馴れさせないために✄」
「馴れさせないため……なんですか?」
「ふぅ〜ん、どげな意味やろっか?」
無論それだけの理由で沙織が納得するとは、孝治にも思えなかった。しかし依頼人はその辺の事情も、すでに承知しているような感じ。グリフォンを載せている三台目の牛車のほうを向いた。それから改めてか、沙織だけではなく孝治たち全員に対し、まるで宣言のように言い切ってくれた。
「この際だから、諸君に前もって言っておく! 今後一切、グリフォンに近づいたり、ましてやエサを与えるような行為は断固禁止する! その理由も言っておくが、このグリフォンがいったん人に馴れてしまえば、野生に戻すことが著しく困難になってしまうからだ!」 (C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |