前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記11』

第二章 グリフォン救済計画。

     (5)

 未来亭正面出入り口に、今回の冒険に旅立つ者たちが集結した。

 

 居合わす面々は隊長格である帆柱を筆頭に、同伴する孝治と友美。内緒でついてくる涼子はいつものごとく。また恒例である美奈子と千秋、千夏の姉妹に加え、さらに今回は特例で、沙織、泰子、浩子の顔も並んでいた。

 

 おまけで見知らぬ新顔男性が三人。

 

 見送りには店長の黒崎を始め、給仕係一同が顔をそろえていた。

 

「けっきょく泰子さんとの決着は、今回お預けのようぞなねぇ✈」

 

 桂がつまらなそうな顔してつぶやいた小言に、彩乃がこれまた、つまらなそうな顔で応じていた。

 

「わたしかて由香に協力ばして、徹底的に参戦するつもりやったとばい……そやけど肝心の由香にやる気がなかとやけ、これは次の回に期待ばしたほうがよかばいねぇ✌」

 

 問題である当の由香は、この件に関して、ジッと沈黙を貫いていた。しかしその目線は、ある一点のみに集中していた。

 

 その一点が誰を指しているのかと言えば――泰子であった。

 

 実を申せば誰にも内緒にしているのだが、由香は昨夜こっそりと、泰子と会合(場所は閉店後の厨房であるらしい。このとき由香は水に。また泰子は風の姿で厨房に入ったので、誰にも見つからなかったわけ)。とりあえずの休戦協定を結んでいたのだ。

 

 仲の悪い精霊同士――と言うより女の子同士の争いは、やはり簡単には決着がつかないものである。そこで今回はたまたま由香にやる気が出ない事情と、泰子が冒険に出かける経緯もあって、ここはお互いに矛{ほこ}を収めようとなったわけ。

 

 と言う理由で、由香と泰子の話はこれまで。それよりも正面入り口には大型の幌馬車が三台も並び、ここから先が不思議なのだが、馬ではなく荷役用とはいえ、牛が馬車を引くかたちになっていた。

 

 つまり馬車ではなく牛車。こうなると両者の大きな違いと言えば、やはりキャラバン隊の進行速度であろう。今のところ孝治にも、牛が車両を引く理由は教えられていないのだが。

 

 なお、牛の横には美奈子たち専用のロバもいた。ただ牛と比べれば小柄なロバなど、それこそ大人と小さな幼児がいっしょに並んでいるような格好であった。しかもこのロバの正体はユニコーン{一角馬}とのハーフなので、純潔な乙女以外、絶対に接触を禁止されていた。

 

 ただし孝治はOK。理由は言わなくてもわかるであろう。


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system