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『剣遊記11』

第二章 グリフォン救済計画。

     (4)

 まずは頭から黒いフードをかぶり、全身を黒一色の衣装で統一。まるで女豹を思わせるような瞳だけを露出させた、その姿。まさに正統派女魔術師の面目躍如であった。

 

「うわぁぁぁぁい♡ 美奈子ちゃん、カッコいいさんですうぅぅぅ♡♡」

 

 千夏が無邪気にはしゃぎまくり、千秋は千秋で、やはり孝治の件をつぶやき続けていた。

 

「ほんまネーちゃんも殺生やなぁ☠ ネーちゃんも師匠が一日{いちんち}コブラでおるのを見とったら、さすがに慣れて平気になるんやけどなぁ☁ それがまた三日も会わへんかったら、なぜかまた蛇嫌いが再発するさかいなぁ☂ 千秋もこれって、変に思うで☃」

 

 実際そこまで配慮をしているつもりならば、美奈子が孝治の前で、コブラにならなければ済む話のはず。しかし、そのような気配りなどまったく思いつかないところが、この三人の三人たる所以{ゆえん}だったりして。

 

 そんな思いに、千秋がふけっているときだった。

 

「ああ☀ この足音さんはぁ、孝治ちゃんとぉ友美ちゃんがぁ、歩いてる音さんですうぅぅぅ✌」

 

 ごくわずかな物音が、茶髪の少女――千夏の耳に届いたらしかった。もちろんすぐに、千夏は反応。服装を整えたばかりの師匠――美奈子に報告した。

 

 姉の千秋も妹の超直感力には、大いに感心していた。

 

「いつもんことやけど、千夏の耳は抜群の地獄耳……やあらへん、聴覚やで♡ 千秋もしっぽを巻いてもええほどや♡」

 

「ほんまどすなぁ♡」

 

 美奈子も弟子の不思議な能力には、絶大と称してもおかしくないくらいの信頼を授けていた。今までも千夏のおかげで、どれほどピンチから救われたものやら。

 

 これにて千夏は、早くも有頂天。それだけではなかった。

 

「きゃはははっ♡ 千夏ちゃん、誉められちゃってぇとってもぉとってもぉうれしいさんですうぅぅぅ☀ あれぇ? でもぉ、なんだか変さんですねぇ☁ 友美ちゃんはぁいいんですけどぉ……孝治ちゃんのほうはぁ、なんだか変に震えてるみたいですうぅぅぅ☁」

 

 千夏はなんと、ふたり(孝治と友美)の足音の差。微妙に異なっている心境(怯え)の状態までも、しっかりとつかんでいるのだ。

 

 もっとも美奈子としては、そこまでの興味はまったく無い素振りでいた。

 

「そうどすか♠ なんかビックリしはるようなことでもおましたんかいなぁ♦」

 

 しかし千秋は的確だった。

 

「大方、師匠がまたコブラになっとんかいなって思って、思いっきりビビっとんちゃいまっか♡♥」

 

(注 理由はコブラだけではなく中原の件もあるのだが、今の時点で美奈子たちは、そこまでは知らなかった)

 

 このすぐあとだった。千夏の言うとおり、三百二十一号室のドアをコンコンと、孝治と友美がノックする音がした。


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