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『剣遊記11』

第二章 グリフォン救済計画。

     (15)

「それやったら、おれかて同感ですっちゃね☀」

 

 帆柱が言いたい話の重要事項は、孝治にも充分に伝わっていた。

 

 本来、確かに同じ北陸地方への旅とはいえ、美奈子たちは目的がまったく違っていた。しかしこの三人をキャラバン隊に薦めた者は、他ならぬ黒崎の口利きであった。だがそれも、あくまでも福井県の県都、福井市まで同行をすれば良いだけの話。ところが美奈子たちは、なぜかグリフォンの生息地まで行きたいと言い張り、断固としてその主張を曲げなかったのだ。

 

「いつもんことやけど、美奈子さんたち……またなんか企んじょりますね☢」

 

「孝治もそう思うけ☞」

 

 孝治と帆柱の考えが、ここでどうやら一致した。

 

「まあ、理由はいっちょもわからんとですけど、美奈子さん、前にも海賊退治って言いながら、けっきょくやったんは宝探しばっかしでしたからねぇ☠ 今度もまあ、その線っち思いますっちゃけど♐」

 

「やっぱしそげなことやろうなぁ♠ まさか途中で裏切ったりせんとは思うっちゃが、とにかく美奈子には注意ば怠るんやなかばい☛☞」

 

「はぁ〜〜い☠」

 

 確かにあまり信用できないとは言え、やはり仲間を疑う行為は憂欝である。それでも一応この本心は隠して、孝治は帆柱に返事を戻した。それから帆柱は、まだなにか別の打ち合わせでもあるらしい。馬の早足で、先頭に立つ折尾の元へと駆けていった。孝治はそんな先輩の後ろ姿を眺めながら、ぶつぶつとひとりでつぶやき続けた。

 

「まっ、これもいつもんこっちゃけど、沙織さんも美奈子さんも、みんなお騒がせなお嬢さんばっかしやもんねぇ〜〜☃」

 

 それから孝治は、問題の美奈子たちが乗っている、二台目の牛車に瞳を移し変えた。その牛車の中は、なにやらとても楽しげなご様子であった。これはさすがに女の子が六人も乗っていれば、にぎやかさが一段と花盛り――そんなところであろうか。特に千夏と浩子のはしゃぐ声が、耳に痛いほど。しかし肝心の美奈子の声だけは、まったく聞こえてこなかった。

 

「美奈子さん、友達とわいわい騒ぐような性格やなかけんねぇ♠ たぶんひとりだけで、ジッと静かにしとんやなかろっか♣♦」

 

 しばらく黙っていた友美が、中の様子を推察した。孝治は友美と涼子相手に、そっとささやいた。

 

「……美奈子さんっち……千秋と千夏ちゃん以外で、お友達っておるんやろっかねぇ?」

 

「う〜ん、わからんちゃ☁」

 

 無論友美にも、答えられるはずがなかった。もともと明快な解答など、初めから期待はしていないのだが。

 

『そんじゃあ、あたしが、ちょっと覗いてくるけ♡』

 

 そんな風で二台目の様子を、おもしろく感じたのだろう。涼子がふわりと、孝治の左横から宙に浮かび上がった。しかし今回孝治は、涼子を止めようとはしなかった。それもただひと言ポツリと、幽霊向かってささやくだけ。

 

「ああ、頼むっちゃよ♠ ただし、いっしょんなって騒いだらいかんけね☠」

 

『それって、どげな意味ね?』

 

 空中から涼子が、孝治にアカンベーを返してくれた。


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