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『剣遊記11』

第二章 グリフォン救済計画。

     (12)

 関門海峡を大型の連絡船で渡航。下関市から本州への上陸を果たせば、あとは福井県までの陸路のみとなる。

 

 折尾のキャラバン隊は幌付きの牛車三台の編成で、一列縦隊の形式を取っていた。

 

 この隊列で山陽道を東へと向かい、最終目的地である北陸行政区、福井県の両白{りょうはく}山地を目指す行程である。

 

 今回の旅の目的は、現在折尾の保護下にあるグリフォンを、自然の棲みかに戻す事業。また、最終ゴールが福井県である理由は、両白山地こそ日本列島でも有数の、グリフォン生息地であるからだ。

 

 折尾は現在、一台目の牛車の先頭に立ち、車を引く荷役牛の先導を行なっていた。また各牛車には大型の牛(南アジアインドから輸入されたコブウシの一種で、ゼブーと言う名の品種らしい)が二頭ずつ(つまり全部で六頭)、丈夫なロープで繋がれ、街道をゆっくりと行進していた。

 

 さらに後続の二台にも、それぞれ御者が付いていた。出発のとき、薄汚れた服装でいた、ふたりであった。しかも意外な話。キャラバン隊は折尾以下、この二名のみで編成をされていた。これでは護衛と付き人を合わせて、未来亭の十名(涼子含む)のほうが、ずっと人数が多いかたちであった。

 

 なお、今回馬ではなく牛が車を引く理由について、説明を行なおう。それは山陽道に限らず日本のほとんどの街道は、未整地な荒れ野が大部分となっている。このため速度にこそ優れているものの、馬の乱暴な走り方では、馬車に乗っての移動など、まさに不可能(たちまち酔ってしまう⚠)。そのうえ車に載せている積載物などが、損傷で台無しとなる恐れもあった。

 

 そこで登場した動物が、荷役用の牛(特に東南アジアや南アジアに多い)。

 

 牛ならば馬とは違って暴走する事態など、ごく稀にしか起こらなかった(一説によれば、赤い物を見せる行為だけは禁物とされている⛔)。おまけに道の状態が最悪であっても、ゆっくりの速度で歩んでくれるから、揺れがとても少なくて済む。従ってどのような悪路でも乗り物酔いに対応できるうえ、荷物が破損することも少ないのだ。

 

 ちなみに荷役用の牛は前述のとおり、肉牛や乳牛などは使えない。あくまでも南方系のコブウシや水牛などがメインとなっていた。

 

 まあ、話は長くなったが、他愛のない蘊蓄である。しかし今回は、少々特別な事情も、実は絡んでいた。それは積み荷であるグリフォンに関係している話であるが、その辺りの説明は、後述に回すとしよう。


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