『剣遊記13』 第五章 「ごめんなさい(すんまへん)」のあとで。 (7) 「フライドチキンとやらの連中はどこじゃーーっ!」
「うわっち!」
聞き覚えのある濁声{だみごえ}で、孝治は背中に大きな氷河の流れを認識した。このところ御無沙汰が長かったのだが、あまり会いたくない人物――北九州市衛兵隊の隊長――大門信太郎{だいもん しんたろう}氏の銅鑼声に、絶対間違いはないだろう。
「ひさしぶりっちゃけど、またあの隊長さんが来ようっちゃよ☠ おれのこげな姿ば見たら、また勘違いの上塗りするに決まっとうっちゃね☢」
孝治は八十パーセント慌て気味。もはやボロボロで、大事な部分(?)のみをかろうじて隠しているドレスの切れ端を、急いで友美から結び直してもらっていた。
その結果が――赤いビキニスタイルであった。
「これで孝治の見せとうない所はええとしてやねぇ……☁」
孝治を助けたついで、友美は美奈子に顔を向けた。
「美奈子さんはどげんするとですか? もう身ば隠す服がいっちょもなかとですけどぉ……?」
しかし美奈子は、この期に及んでも気丈であった。
「うちのことやったら、かまいは無用でおますさかい☀ いつもの術でごまかすようにいたしますわ✌」
全裸の美奈子は、妙に自信ありげな口調となっていた。それから、孝治も友美もよく聞く定番の呪文を、ブツブツと口ずさみ始めた。当然の恒例ながら次の瞬間、その裸体がピカァーッと発光した――かと思ったら、やはり恒例の白いコブラがそこにいた。
裸を野暮な男衆から見られるくらいだったら、コブラに変身していたほうが、だいぶマシって気持ちなのだろう。だけど、心の準備のできていなかった孝治には、いささか刺激が強過ぎた。
「うわっちぃーーっ!」
これまたひさしぶりである毒蛇の出現で、孝治は小さくではあるが、軽いパニックに襲われた。おかげで秋恵ボートから飛び上がり、そのまま海へジャボン! ボートの上にいる千秋から笑われた。
「なんやネーちゃん、まだその病気治っとらへんかったんやなぁ✊ 師匠と千秋らとの付き合いも長いんやさかい、ええ加減そん病気を克服しとらなあかんでぇ☻」
孝治は波間を漂いながら、千秋にレベルの低い言い返しをしてやった。
「しゃーーしぃーーったい! いつもかつも予告なしの美奈子さんが悪かっちゃよ♨」
だけどよく見れば千秋だけではなく、千夏も友美も、それに涼子も笑ってくれていた。ゴムボートに変身中である秋恵だけは、今のところわかりようもないのだが。
ちなみに千秋が言う孝治の病気とは、重度な『毒蛇恐怖症』なのである。 (C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |