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『剣遊記13』

第五章 「ごめんなさい(すんまへん)」のあとで。

     (6)

 この最後の大嵐を、黒崎と若戸たちが大型飛行船――銀星号の展望室から並んで眺めていた。銀星号自体は大型トルネードからかなりの距離を取っていたので、直接的な被害は免れていた。ただし、その余波で船内が大揺れに揺れまくったため、中では相当な数の船酔い患者が続出していた。

 

「いやはや、どうやら終わったようだがね」

 

「そ、そのようですね……♋」

 

 ドシンと構える黒崎とは、やはり対照的。若戸は今も、頭に氷嚢を載せていた。彼もいわゆる、船酔いの被害者であった。そのため氷嚢はうしろから、変わらず執事の星和に吊り下げてもらっている格好となっていた。

 

 とにかく完全に無事な者は、今や黒崎ひとりと言っても、決して過言ではなかった。また黒崎ほどではないが、星和も一応二本の足で立っていられるくらいには、飛行船の揺れに耐えきっていた。

 

「若、どうやら衛兵隊が駆けつけてきているようでございます☜」

 

 その星和執事が両手で持っていた氷嚢吊りの竿を右手だけ離して左手で持ちつつ、遥か眼下の海上を指差した。

 

「ほほう、勝美君と彩乃君も、しっかりとうまく報告してくれたようだがね」

 

 若戸よりも先に黒崎が響灘を見下ろし、口の右端をニヤリとさせた。彼が見下ろす海上には、飛行船からだとそれほど大きくは見えないのだが、大小合わせて十隻もの船団が、隊列を組んで航行していた。その船首の向かう先は、たった今までトルネードが荒れ狂っていた海域のようだった。

 

「きっとあの船団の先頭には、市の衛兵隊長である大門殿が乗ってると思うがや。またこれで、新しい騒動が始まらなかったらいいんだがねぇ」

 

「えっ?」

 

 またもや発せられた黒崎の変なつぶやきに、若戸は頭に氷嚢を載せたままの顔を向けた。

 

「どげんことですか、それって?」

 

 目を丸くする若戸に、黒崎はいたずらを楽しんでいるような顔で答えた。

 

「いや、これはうちの内部の話だがね」


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