前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記13』

第五章 「ごめんなさい(すんまへん)」のあとで。

     (5)

「姉ちゃん、負けた敵さん相手に、ずいぶんドエロうサービスしてくれるもんでんなぁ☀」

 

 声の主は言わずと知れた桐米良親分。こいつは海面上に頭だけを出して、まるで晒し首のようにしてポッカリと浮かんでいた――と思ったら、フライング・コンドルのその他の面々(子分A、B、C、Dたち)も、同じ状態で海面から首を出していた。

 

 それらの連中が秋恵ボートを大勢で取り囲み、一斉に美奈子のオールヌードに視線を浴びせていたのだ。

 

「え、ええ、あれまあ! これはいったい、どないなってまんのやぁ♋!」

 

 同性には自分の裸を見せる行為に寛容(過ぎ)。しかも孝治まで、今は同じ女性と決め込み、ヌードの公開に一片のためらいも見せない美奈子であった。それが多数のヤローどもから見られたと知ったとたんだった。ふだんの高慢ぶりが、見事微塵も無しに消し飛んでいた。

 

 それからまさに、大慌ての体。秋恵ボートの中に、ペタンとしゃがみ込む狼狽っぷり。この行動はむしろ、孝治と友美と涼子にとっては、実に新鮮な光景でもあった。

 

「さすがの美奈子さんも、男どもに自分の裸ば見られるんは、我慢できんことやったみたいばいねぇ☻」

 

 などと孝治は、のんびりとささやいてやった。もちろん事態が、これにて穏便に終わるはずはなかった。

 

「女子の玉の肌を無料{ロハ}で観賞しなはるなんて、えろうえげつない行ないでっせぇーーっ!」

 

 美奈子が大きな奇声を張り上げた。それから右手を大きく振り上げ、今度は下ろす振る舞い。これは新たなる攻撃魔術の発動なのだ。

 

「あひゃあーーっ!」

 

「ぎょわぁーーっ!」

 

「でへぇーーっ!」

 

 海面に浮かんでいたフライング・コンドルの面々が、これにてさらなる大災難。せっかく命が助かって海にポッカリと浮かんでいたのに、今度は巨大な渦潮に飲み込まれ、遥か遠方へと吹っ飛ばされる顛末と相成った。

 

 この魔術は先ほどのトルネードの変形版と言えそうだ。

 

 とにかく合掌。

 

 それはそうとして(するなよ!)、この災難から、今度は一応免れた孝治と友美と涼子であった。それでも口から出るささやきに、戦慄の思いを抑えることはできなかった。

 

「……馬鹿っちゃねぇ☠ やっと命が助かったとに、また美奈子さんば怒らせてしもうてから……♋」

 

「わたしも孝治と同感ちゃね⚠⛔

 

『平気なんは、千夏ちゃんと千秋ちゃんだけみたいっちゃね☛』

 

 涼子がお終いでささやいたとおり、双子姉妹のみが、美奈子に盛大なる拍手喝采を送っていた。

 

「師匠、お見事やで☻☆」

 

「パチパチパチパチ☀☀☀ 千夏ちゃん、またすっごいモン見せてもらいましたですうぅぅぅ☆♡☆ きょうはとってもぉ、楽しい一日さんでしたぁ☺☺☺

 

 わんわんわん!――と、ミニチュア・ダックスフンド型ケルベロスのヨーゼフも、いっしょになって吠えていた。要するに千夏は人様のペットである愛玩犬――もとい愛玩ケルベロスを、最後まで勝手に冒険の場へと連れ回していたわけ。


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system