『剣遊記13』 第五章 「ごめんなさい(すんまへん)」のあとで。 (21) でもって、実際の次の日。美奈子は黒崎店長から新しい仕事の依頼を請け、弟子たち(千秋と千夏)といっしょに、旅の支度を整えていた。
「で、師匠、今度の仕事はどこまで行くんや?」
カバンに着替えその他を詰め込んでいる千秋が、顔を上げて美奈子に尋ねた。その美奈子自身は窓辺に身を寄りかからせ、外の風景を眺めていた。
「ふぅ……そうでんなぁ☁」
美奈子はため息を繰り返しながらで、弟子からの問いに答えた。
「今度は花の東京に行ってほしいとのことどすえ✈ 依頼の内容はようある類の悪霊祓いやさかい、えろう簡単なお仕事でっせ⛹ でもぉ……☁」
「でもぉ……どうかしたんですかぁ、美奈子ちゃぁぁぁん?」
続いて千夏が、美奈子の顔を下から覗き込んできた。彼女も一応、旅の準備を手伝ってはいるのだが、タンスの中から下着を放り出すばかり。このため支度のほとんどは、姉である千秋の仕事となっていた。
もっともこれはいつもの定番なので、美奈子も千秋も、千夏に注意などは特にしなかった。それどころか美奈子も千秋も、実は千夏が大きな落胆気分でいるのを知っていた。それはきのうのお見合い話が破談したあと、当然ながらミニチュア・ダックスフンド型ケルベロスであるヨーゼフと別れることになったのだが、やはり千夏は大泣き😭の繰り返しだったのだ。
「嫌ですうぅぅぅ! ヨーゼフちゃんとぉ離れ離れになりたくないのでしゅうぅぅぅ😭!!」
「そこまでヨーゼフを好きになってくれたんでしたら、もうヨーゼフにどちらが良いかを選んでもらいましょうかね☺」
お子様特有のわがままを言いまくる千夏に、ここで若戸本人がひとつの提案。真ん中にヨーゼフを置いて、両方の端から若戸と千夏がそれぞれ呼び合う方法を。
千夏は必死になって、大きな声でヨーゼフに呼び掛けた。
「ヨーゼフちゃぁぁぁん! これからも千夏ちゃんといっしょに暮らしますですうぅぅぅ☀☀♡♡☆☆」
反対に若戸のほうは、無言で立っているだけ。その結果はなんと、ヨーゼフの三つの頭の内のふたつが若戸に向き、千夏には右端の頭ひとつだけとなったわけ。
けっきょくヨーゼフは、やはり長い間自分を可愛がってくれた本当の飼い主――若戸を選んだのである。これに少々のショックを受けたらしいものの、千夏もその結果を受け入れることにしたのだ。
そのイザコザはとにかくとして、美奈子はふたりの弟子に向け、先ほどからの答えを繰り返した。
「きっとこれは……店長はんの気遣いなんやなぁ✐ しばらく九州からも京都からも離れて、心の休養をしてきなはれ……言うところでんなぁ⛴」 (C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |