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『剣遊記13』

第五章 「ごめんなさい(すんまへん)」のあとで。

     (20)

 そのとたんだった。

 

「うわっちぃーーっ!」

 

「きゃあーーっ!」

 

「やだぁーーっ!」

 

『あ〜〜ん!』

 

 喫茶店の東側の窓が突然開いて、なぜか孝治と友美と秋恵の三人が、店内へドドッとなだれ込んできた。

 

 もちろん涼子もいっしょに乱入したのだが、彼女は周囲から存在を認識されていないので、見た目には三人だけである。

 

「きゃっ! 孝治くんと友美ちゃん、それに秋恵ちゃんまで! いったいどがんしたとね!」

 

 勝美がビックリ仰天して、パタパタとテーブルの上へ舞い上がった。しかしこの無様に、孝治は照れ隠しで、愛想笑いを浮かべるしかなかった。両手で軽装鎧姿に付いた埃をパンパンと掃って、ゆっくりと立ち上がりながらで。

 

「あっ……い、いえ……中ん声ばよう聞こえんかったもんで、よう聞こうと思うて窓ガラスにもっと身ぃ寄せたら、友美と秋恵ちゃんと三人合わせて、窓ば押し過ぎちゃったとですよ☻ まあ幸いっちゅうか、窓がパカッと開いたもんやけ、ガラスは割らんで済んだとですけどねぇ☻」

 

 また友美は友美で、少し打ったらしい腰を、自分の両手で揉んでいた。

 

「や、やけん言うたやない☢ あんまし興味丸出しにならんほうがええって☠」

 

「友美かて、あとからあとからおれば押してくれたっちゃやない

 

「せ、先輩……ケンカばしとう場合やなかですよぉ……☂」

 

 孝治と友美の言い合っている横で、秋恵が恥ずかしそうな顔でうつむいていた。

 

『お互い、どっちもどっちっち思うっちゃけどねぇ☻ けっきょくもったいぶって、さっさと魔術ば使わんけ、こげんことになるっちゃよ☠』

 

 もちろん無事でいる涼子が、横目気味にささやいてくれているときだった。

 

「うわっち! ぞくっ!」

 

 孝治は背中に、冷たい視線のようなモノを感じた。

 

「うわっち?」

 

 孝治はほぼ本能的に、視線を感じる方向へ顔を向けた。そこでは美奈子がゴゴゴッの空気を発生させ、孝治に光る(ような)瞳を向けていた。

 

 孝治は直感で、すべてを感じ取った。

 

「うわっち! 美奈子さん怒っちょうとねぇ!」

 

「はい……どす♨」

 

 続けての美奈子のセリフ。

 

「うちが泣いてるとこを勝手に見はるやなんて、うち、仰山我慢ができんのでっせぇ

 

 孝治も負けじと――ではないが、一応反論(のつもり)を叫び返してやった。

 

「美奈子さん、いっつも自分の裸ば平気で見せようくせに、涙は許容の範囲外っちゅうとねぇ!」

 

「そうどすえ☠♨」

 

 このあと孝治の記憶は途切れ、なぜか次の日になってもなにがいったい起こったものやら。絶対に思い出せなかったりする。

 

 お見合いの話自体は、どうやら穏便(?)に破談となったような展開らしいのだが。


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