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『剣遊記13』

第五章 「ごめんなさい(すんまへん)」のあとで。

     (2)

「おーーい! 千秋らも乗せてんかぁーーっ!」

 

 すぐに海上のどこかから、双子姉妹の姉の声が轟いた。

 

「そやった♋ 千秋ちゃんと美奈子さんば見失のうてしもうたんやった

 

 孝治は慌てて、付近の海面をキョロキョロと見回した。幸いにも、ふたり(美奈子と千秋)はすぐに見つかった。

 

「千秋らこっちやねぇーーん! 早よそんボートをこっちにやってぇなぁ!」

 

 波の合間から千秋が顔を出し、盛んに孝治たちに呼び掛けていた。

 

 千秋は野生児の通り名に恥じないかのごとく、泳ぎもかなりに達者なのだ。今も胸から上の上半身を海面に出して、器用な立ち泳ぎを披露しているのだから。

 

 無論師匠である美奈子も、特に溺れているような様子もなし。こちらは頭だけを海面上に出して、救援の声を弟子の千秋に任せているようでいた。

 

 なにしろ本人はひと言もしゃべらず、ジッと孝治たちを見つめているだけなのだから。

 

「ちょい待ちや! すぐそっちに行くけねぇ!」

 

 孝治は美奈子と千秋に向け、大声を張り上げた。それからゴムボートに変身している秋恵にも、ポツリとささやきかけた。

 

「ほんなこつすまんちゃけど、美奈子さんたちもいっしょに乗せてあげちゃってや☻ 今は秋恵ちゃんがいっちゃん頼りになるとやけ

 

 すると孝治の声に応え、秋恵がボートの丸い先端を、美奈子たちの方向へと変えてくれた。これは先ほどまでの小型飛行船と、同じ状況。全体がピンク色であるゴムボートのどこに、いったい視覚というモノがあるのやら。孝治は今回の騒動が終わったら、あとで改めて秋恵に尋ねてみようと考えた。

 

 それはとにかく、秋恵ボートの船尾にあるイルカ型の尾鰭が上下をすれば、実際に速度は速かった。ほとんどわずかな時間で、孝治たちは美奈子の元まで急行できたのだ。

 

「さあ、早く乗ってください

 

 友美がすぐに右手を伸ばし、まずは千秋から乗船させた。

 

「ほんま、すまんなぁ

 

 ボートに上がった千秋は、野伏風の衣装が、海水でグッショリの状態でいた。

 

 続いて美奈子である。

 

「ほな、うちも上がらせてもらいますえ

 

 美奈子は誰の手も借りず、自力でボートに乗船した。

 

 そこでまた、孝治の大きな飛び上がり事態となった。

 

「うわっち! み、美奈子さん! 服ばいったいどげんしたと!」

 

 美奈子はなんと、一糸もまとわない完全全裸の状況だった。

 

 空中浮遊をしていたときに着ていたはずの黒衣が、なぜか布切れ一枚残さずして喪失。美奈子の白い背中の肌には、彼女自慢の黒髪が、ベッタリと張り付いていた。


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