前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記13』

第五章 「ごめんなさい(すんまへん)」のあとで。

     (1)

「やぁ〜〜、なんとか助かったもんちゃねぇ☆」

 

 孝治は現在、新しい乗り物の上。海上にポッカリと浮かんでいた。

 

「けっきょくまた、秋恵ちゃんに助けられたみたいっちゃねぇ♡」

 

 友美もまた、同じ乗り物に腰を下ろしていた。

 

 ここは響灘の海上。ピンク色をした楕円形のゴムボートが、プカプカと波の合間で揺れていた。しかもなんと、このゴムボートには先ほどまでの小型飛行船と同様、船尾に魚型の尾鰭――いやいや現在は形状が少々異なっている――が備わっていた。くわしく説明をすれば、ゴムボートの船尾にはクジラやイルカ類のような、垂直ではない水平型の尾鰭が付属をしているのだ。つまりこの尾鰭で、先ほどまでの飛行船とだいたい同じような感じで上下にパタパタと動いて、ゴムボートを海上で進行させていた。

 

 要するに早い話。巨大トルネードに巻き込まれたとき、秋恵変身の飛行船型気球が、見事に墜落の憂き目となったわけ。そこで孝治を始め全員が、海上落下の災難となった顛末だが、このとき小型飛行船に変身していた秋恵が、とっさに自分のかたちを変化させ、今度は水面に浮かぶ中型のゴムボートとなったのだ。

 

 まさに電光石火的素早さの変身であった。

 

 しかも色は、初めっからの定番どおり、海上でも見事なピンク色。また、空中浮遊のときには内部に空気よりも軽いヘリウムガスが必要だが、秋恵は落ちるときに内部に溜め込んでいたガスを、一気に全部放出してしまったらしい。代わりに今度は、ふつうの空気を内部に吸い込んで我が身をゴムボートに変え、孝治たちを海から拾い上げてくれたのだ。

 

「うわぁーーい♡ お空の上から海の上さんですうぅぅぅ♡ 千夏ちゃん、すっごい大冒険しましたさんですうぅぅぅ☀」

 

 わんわんわん!

 

 秋恵変身のゴムボートにはもちろん、千夏とヨーゼフもとっくに乗船していた。それから当然、涼子も便乗済み。

 

『秋恵ちゃんって、ほんなこつ凄かぁ〜〜ってね☆ 一瞬で飛行船からボートに姿ば変えるんやけねぇ 世の中ってなしてこげん、変わった人ばっかおるとやろっかねぇ☻♋

 

「涼子が言うんやなか……それはとにかくやねぇ、今回秋恵ちゃんば仲間に入って、これ以上はない大正解ばいねぇ

 

 ここは孝治も大いに、秋恵の活躍(?)に対して、白旗を揚げたい思いになりきっていた。


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system