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『剣遊記13』

第五章 「ごめんなさい(すんまへん)」のあとで。

     (18)

 このとき無論ではあるが、黒崎はやはり、冷静な泰然自若ぶりを貫いていた。ただし、ふだんとあまりにも変わらない態度っぷりであるのだが、口の右端にはしっかりと、微かな笑みが浮かんでいた。

 

「若戸さん、そんなに思い詰めなくてもええと思うがや。僕としても衝撃は衝撃なんですが、これはあくまでも本人同士の気持ちでありますがや」

 

 口に出して言うほどの『衝撃性』など、外見にはカケラもなし。続いて黒崎は、美奈子に顔を向けた。

 

「美奈子君、今回の件は、これでええがやか?」

 

「う、うち……でっか?」

 

 美奈子は言葉に詰まった。

 

 返事はとっくに終わらせたつもりだった。だけれど、これほどまでに改めて問われると、今まで頭の中で温めていた気持ちが、急激に消え失せていくような感じがした。

 

「う、うちは……☁」

 

 美奈子はゴクリとツバを飲み込んだ。

 

もっと簡単に済むモノと考えていた、話の終焉。それがこれほどの緊張と覚悟を強いられることになろうとは。

 

 まさに想定外の極致とは言えないだろうか。

 

「いえ……もうよかですよ、美奈子さん

 

 もはや言葉が出なくなった美奈子。その代わりでもないだろうけど、若戸が逆に、返事を戻してくれた。

 

「……今回の話、何度も繰り返しますが、僕のほうから身を退くことにいたします✝ 大変ご迷惑をおかけいたしました


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