『剣遊記13』 第五章 「ごめんなさい(すんまへん)」のあとで。 (15) 店内のシビアな空気は、外から覗いている孝治と友美と秋恵と涼子にも、鋭くビンビンに伝わっていた。
無論会話の内容など、まったくわからないのだけれど。
「な、なんか……店ん中の雰囲気ば、ちょっと変わったみたいっちゃよ♋」
孝治のつぶやきに、涼子が冷ややか気味で応じてくれた。
『前言撤回⚠ やけん、あたしが中ば見てこよっかっち、さっきからなんべんも言いよろうも☹ 孝治は自分ばそげん焦らして、なんがおもしろいとね?』
「しゃ、しゃーーしぃったい!」
孝治は我ながら説得力に乏しい弁明で返してやった。
「そげなん、それこそなんべんも言いよろうも♐ 人の内緒話なんちゅうもんは、堂々と聞いたらいっちょもおもろないことがほとんどなんやけ⛐ こげんして陰からこっそり推理するんが、醍醐味っちゅうことやけね⛑」
「ほんなこつ、説得力のカケラもなかやねぇ☻」
涼子よりも先に、勘の発達している友美が、孝治を笑ってくれた。この間秋恵はジッと黙って、中の様子を見つめているだけ。それよりもこの四人が見守る喫茶店の中では、そろそろ沈黙の限界が訪れているようであった。
「見てん☞ 若戸さんのほうから、美奈子さんになんか言いようっちゃよ☛」
「ほんなこつ♐」
友美に言われて、孝治は改めて、窓から店内を注視した。中では明らかに、若戸が美奈子に向かって、なにかを言っている場面となっていた。
孝治はその様子に瞳を向けたまま、友美にささやいた。
「友美はぁ……そのぉ、ああ、そうやった☆ その読唇術なんかできたとやろっか?」
読唇術とはつまり、遠くにいる相手の口の動かし方を見て、なにをしゃべっているのかを探る技術である。これはあまり、魔術とは関係しない心理の読み方なのだが。
これに友美は、頭を横に軽く振ってくれた。
「口だけば見て会話ば探る術は、わたし習ったことなかっちゃねぇ✄ でも、もし良かったら、中の音声ばここまで届くようにできる魔術はあるっちゃけど♾☎」
「じゃあ、それやって……☻」
孝治はそこまで言ったのだが、その実行よりも早く、店内にさらに新しい動きが起こっていた。若戸が突然、椅子から立ち上がったのだ。 (C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |