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『剣遊記13』

第五章 「ごめんなさい(すんまへん)」のあとで。

     (14)

 貸し切りである喫茶店の店内を、しばしの沈黙が支配した。ふだんは無邪気極まる千夏でさえ、この空気には逆らえない感じで押し黙り、師匠の美奈子をジッと上目遣いで見つめていた。ヨーゼフでさえも例外ではなかった(?)。

 

「師匠……♋」

 

 このような空気の中、最初に口を開いた者は、意外にも千秋であった。

 

「い、いきなり……なん言いよりまんねんな?」

 

 千秋とて、美奈子が最終的に今回の見合い話を断るであろうことは、初めっから知っていたはず。しかし、美奈子がこれほど重たそうな口調で『すんまへん🙇』を言うとは、さすがに予想の域を超えていたのだ。

 

 同じ『すんまへん(ごめんなさい🙇)』にしても、師匠のやり方である。もっと軽ぅ〜く簡単に終わらせてくれるんやろうなぁ――と、正直千秋は、そのように考えていた。

 

 もちろん千秋の問いに、今の美奈子は答える余裕を持ち合わせてはいなかった。今も顔をテーブルに向け、ジッと口を閉じたままでいるので。それでも千秋に不満はなかった。

 

「ま、まあ、こないな場合やねん☢ 今急には答えられへんやろうなぁ……☃」

 

 そのまま千秋は顔の向きを変え、真正面にいる若戸に瞳を移した。

 

 ところがこれまた意外な話。いわゆる穏便なる破断――『ごめんなさい(すんまへん🙇)』を突き付けられた格好である若戸も、ある意味おだやかな表情をしていたのだ。

 

 これではまるで、美奈子の爆弾発言を、当初から予測していたかのようだった。

 

「なんやなぁ……やっぱり大人の考えることって、千秋にはようわからしまへんなぁ☻」

 

「千秋ちゃぁぁぁぁん、いったいなにがあってんですかぁ?」

 

 ここでようやく、場の空気に慣れてきたようだ。妹の千夏がこそっと席から離れ、千秋の右耳に話しかけてきた。これに千秋は、苦笑気分で応じてやるしかなかった。

 

「いや……これは千秋にもようわからへんねん 今起こってることが予想どおりなんか、それとも想定外っちゅうやつなんか、もうむずかしゅうて千秋もお手上げやねんな✋✋


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