『剣遊記13』 第五章 「ごめんなさい(すんまへん)」のあとで。 (11) その後日は、早くもやってきた。
つまりが騒動の日の明後日。場所は未来亭の西側に隣接する、喫茶店を借り切っての再開となった。
お見合いの場には、前日と同様の面々が顔をそろえていた。
主役である美奈子と弟子の千秋・千夏姉妹。店長の黒崎と秘書の勝美も同席していた。
また若戸側のほうも、当主の俊二郎氏と執事の星和氏。要するにメンバーは、まったく変わっていなかった――と言いたいが、さすがにきょうの席には、孝治、友美、秋恵、それに涼子は参加をしていなかった。
赤の他人が自分たちの都合を無視された格好で、二度も人のお見合いに立ち会うことは、もろに不自然であるからだろうか。しかしそこは、こうなれば毒を食らわば皿まで。さらに加えて好奇心が非常に旺盛な三人(――もとい四人)の性格。喫茶店の内部が覗ける外の窓から、一生懸命に店内の様子を探っていた。
「なんか見えるや、友美ぃ?」
「ううん、もっとよう中が見える窓はなかっちゃろっかねぇ☁」
「あたしもそがん思いますばい☞」
『あたし、中に入ってみよっか?』
こそこそっと、外の道路から内部を覗く孝治と友美に、幽霊の涼子が、そっとささやきかけた。
無論秋恵のみ聞こえない。だけど孝治は、頭を横に振った。
「その方法もありっちゃけどぉ……それやったらなんかおもろないっちゃねぇ⛔ 我ながら贅沢ば言いようとは思うっちゃけどぉ……⛐」
一応秋恵には聞こえないよう、とても小さな声で。それはともかく、孝治自身も変に感じている妙なこだわりは、つまり次のような感じ。情報を安易に他人任せにする行為は、なんだか拍子抜けがして、炭酸抜きのコーラを飲むような感じがするのだ。
こればかりは言っている本人(孝治)も、理解が不可能と言える心境なのだが。
『相変わらずっちゃねぇ☻ 変なプライドばいっつも大事にするんは、孝治のええとこか欠点なんか✄ あたしいっちょもわからんちゃよ✊✋』
「まあ、そげん言わんと✎⛾」
孝治は半分苦笑気分で、ほっぺたをふくらませている涼子に応じてやった。
「ここまでくれば、これはもうおれの欠点っちゅうのはわかっちょうっちゃよ☻ 自分でも治さないけん減点ぶりっちゅうこと、意識ばしとんやけどねぇ☕」
「で、そん減点ばいっちょも治さんとこが、また孝治の大きな特徴なんよねぇ☻」
いつものごとく、ここで友美も付け加えてくれた。
『まあ、ええっちゃね☺ あたしもなんか、直接見るよか、ここで外から見ようほうが、なんとのうおもろいような気になってきたけ♠♥』
涼子もけっきょく、孝治に感化されたようだ。幽体を店内に忍び込ませる真似は、ここでは一応慎{つつし}んでくれた。
さらに――の連続だけど、ここで友美が、ポツリとささやいた。これは孝治と秋恵と涼子にも、しっかりと聞こえるような口調でもって。
「今にして考えてみたらぁ……わたしたちが美奈子さんのお見合いに付き合う理由って、初めっからあったとやろっかねぇ? 一応美奈子さんの見栄とプライドば助けるっちゅうのが、表向きの理由になっとうっちゃけどぉ……☁」
「そうっちゃねぇ〜〜☻」
孝治も友美の疑問の再発には、大いに同感の気がしていた。だけれど、その問いに対する解答も、なんだかわかるような感じがした。明確な解答者は、この場には存在していないのだけど。
孝治は友美と涼子相手に、そっとささやき返してやった。
「やっぱおれたち、曲がりなりにもこん物語の主人公なんやけ、なんでも顔ば出さんといけんのは、これはもう運命かつ宿命っちゅうもんやなかろっか✐✍✎」
ここで秋恵が、口をはさんでくれた。
「でもそがんこつ言うたら、あたしは今回ゲストなんやけどぉ……おーどか(長崎弁で『横着』)して混じってもよかでしょうかねぇ?」
「まあ、ええんやなか☺」
孝治は苦笑ではなく、本心からの笑顔で応じてやった。ただし、孝治も友美も涼子も秋恵も知らない話。真相は美奈子がお見合い不成立の後始末を、孝治に押し付ける下心があったのだ――これはストーリーの前半に記述済み。だが幸いと言うべきであろう。その付近の展開はうやむやとなり、孝治たちは理由をポジティブに考えられる幸運となったわけ。 (C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |