『剣遊記13』 第五章 「ごめんなさい(すんまへん)」のあとで。 (10) 突然の空の賊集団――フライング・コンドルの襲撃により、この日の美奈子と若戸のお見合いは、なかばうやむやの格好となったしだい。
後日、改めてやり直すように変更された。千夏などは一時的とはいえ、せっかく仲良くなったヨーゼフとの別れに、大いに泣きまくったものであった。
なお、逮捕された桐米良たちには母船はなく、本当にハンググライダーだけで空を荒らし回っていたと言う。もしかすると自分たちの母船にしたくて、銀星号を狙ったのだろうか。その割にあきらめも早かったが。
美奈子はその夕方、未来亭の自分たちの部屋(三百二十一号室)の窓辺に身をもたれさせ、ジッと夕べの街並みを眺め続けていた。
そろそろ夕飯に近い時刻なのだが、彼女はまったく、その場所から動こうとはしなかった。
「師匠……飯の時間やで☕」
千秋が声をかければ、一応返事を戻してはくれた。
「そうでっか☹」
「美奈子ちゃぁぁぁん、なにをそんなに悩んでるんですかぁ?」
ヨーゼフとの別れもなんとか乗り切った、千夏の屈託ゼロのような問い掛けにも、美奈子は生返事的に戻すだけだった。
「……なんでもあらしまへんのや☁ ただ……☁」
「ただ……?」
「なんですかぁ?」
姉妹声をそろえて、美奈子の顔を下から覗きみた。
美奈子はふっと、微小な微笑みを浮かべた。
「な、なんでもあらしまへんのや☺ とにかく夕御飯にいたしましょうえ✈」
「せやなぁ……⛹」
これで納得をしたわけではないが、今はこれ以上聞かんほうがええで――千秋は質問の矛を、いったん胸の中に収めるようにした。それでも千夏は千夏で、相変わらずの無邪気そのままでいた。
「はぁーーい☀ みんなでお食事さんに行きますですうぅぅぅ☆ きょうのメニューさんはぁ、オムライスさんがぁてんこ盛りさんになってるそうなんですうぅぅぅ☕☕☕」 (C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |