『剣遊記U』 第四章 銀山道中膝栗毛。 (9) なにはともあれ、話し合いの結果がまとまった。ここで秀正が一同を代表するかたちとなり、改めて到津に言った。
「先輩もああ言いよるけん、石見行きの道案内、あんたに頼むことにするばい♠」
「ありがとある☀ ワタシ一生懸命、あなたたち案内するわね☀」
到津が深々と頭を下げた。そのすぐあとだった。
「ちょっとあなたの地図、見せてほしいだわね♡」
早速秀正に、先ほどの古地図を求めてきた。
「こ、これけ……?」
秀正は、初めはややためらい気味だった。しかし、ここまで話が進んで今さらあからさまな拒絶も、ある意味において変であろう。それでも地図を奪い取られないよう、しっかりと端の部分を右手でつまんでから、到津に地図を見せるようにしていた。
「先輩……☠」
「わかっちょる♐」
孝治と荒生田もこのとき、静かに腰の剣に手をかけていた。だが到津は、見せられた地図の隅から隅までを、ただじっくりと眺め回すだけ。それからひととおり見終わって、地形の誤りらしい箇所を、あれこれと指摘してくれた。
「この地図、この辺り道正しいけと、山の中不正確あるね⚠ やはりワタシ出てきて良かたのこと♡」
「えっ? それってほんなこつ?」
秀正が両目を丸くした。反対に到津は、やけに自信満々の態度を見せていた。
「そうある☀ ワタシ今から正しい道行くあるから、皆さんちゃんとついて来るだわね✈」
とにかくあまりにも積極的――かつ不自然なほどである到津の協力姿勢に、孝治も半信半疑――もとい一信九疑(ミジンコサイズぐらいには信用するようにした)の思いをさらに強くしてつぶやいた。
「た、確かに古い地図っちゃあ、古いとやけどねぇ……☠」
それでも到津は、孝治に疑いを抱く暇{いとま}さえ、与えてくれなかった。そのままさっさと自分が秀正に代わって先頭に立ち、山道に足を踏み入れるものだから。
「皆さん早く来るだわね✌ ワタシ正しい道行くあるから、ちゃんとついて来るよろし✈」
「わ、わかったっちゃよ……☁」
その有無を言わせぬ行動ぶり。これに呆気に取られながらも、孝治を始め全員、到津のあとを慌てて追った。
それから孝治はこのときになって、事実上の飛び入り参加である山中の案内人――到津のすぐあとを進みながら、改めて声をかけてみた。
決して油断を見せないようにして。
「ねえ、あんたの名前、到津福麿さんって言うっちゃよねぇ✍ これってふつうは、なんて呼んだらよかっちゃろっか?」
これに到津が即座に振り返って、意外と愛嬌のある笑顔で応じてくれた。
「そが〜に気をつかわなくてもよろしあるね♥ なんなら『福ちゃん』と言ってくれたらうれしいわや♡」
「『福ちゃん』ねぇ……☠」
もちろん孝治を始め全員が、親しみを込めて彼の名を、そのように呼ぶことはなかった。
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