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『剣遊記U』

第四章 銀山道中膝栗毛。

     (8)

「うわっち!」

 

「ええーーっ!」

 

 孝治を筆頭に後輩一同、声をそろえて驚きの大合唱となった。孝治は瞳を大きく開いた気持ちになって、荒生田にその真意を問いただした。

 

「先輩、マジっすか! あげな怪しかやつばいっしょに連れて、もし油断ば突かれて寝首でもかかれたら、いったいどげんするとですか!」

 

 ところがきょうの荒生田は、なんだか昔からよく知る先輩とは違っていた。なんと孝治に右手の手の平を向け、真面目そうな口振りで説教を返す余裕的態度を見せつけたのだ。

 

「油断ば突かれて寝首ばかかれるとやったら、それはかかれた戦士のほうに問題があるっちゃね☠ まあ、オレの考えはこうやけ♪ あいつば怪しいっち思うのは、実はオレもおんなじばい♬ やけん、やからこそいっしょに連れて、オレたちの監視下に置くったい♐ ヘタに断って野放しにするよか、そのほうがよっぽど安心できるっちもんやけね☻」

 

「なるほどぉ、さすが先輩です♡」

 

 裕志が感心した様子で、うんうんとうなずいた。

 

「……で、やつが本当に敵っちゅうこつなったら、どげんします?」

 

 ツバをゴクリと飲みながらである孝治の再度の問いにも、荒生田は重々しく、なおかつ冷徹に答えてくれた。

 

「そんときはオレがやつば斬る✄  孝治もそんつもりの腹でおるっちゃぞ、よかや♐」

 

「は、はい……☠」

 

 荒生田先輩の言葉でこげん緊張したんは初めてばい――と、孝治は体全体が身震いする思いを、このとき感じた。さらに涼子も、五人の頭上で荒生田を見直しているようだった。

 

『この荒生田って人、顔に似合わんと、けっこうまともなこと言うっちゃねぇ♠♣』

 

 涼子のささやきに、友美も気づいたようである。浮遊の術でこの場からふわりと、空中に舞い上がった。これには孝治もすぐに気がついたのだが、自分は魔術が使えない身の上。黙って様子を眺めるだけにした。

 

「友美んやつ……下にバレんようにするっちゃよ⛑」

 

 その友美曰く、次のような会話を涼子と交わしていた。

 

「涼子もそう思うんけ……そうっちゃねぇ、わたしも意外に思うたっちゃけど、先輩が言ってることは正論やね☀ 伊達に日本中旅して周っとうだけじゃなかっちゃけねぇ✈」

 

『友美ちゃんも、そう思うとるんやねぇ✐』

 

 涼子もやはりうなずいていた。孝治は思った。

 

(ふたりとも、荒生田先輩戦士ば多少やろうけど、認識ば改めちょうっち感じばいねぇ✍ これが本モンであることば、おれかれほんとは願{ね}ごうとんのやけどね☻)

 

 とにかくこの一件で、荒生田の株が、少々だけど上がった模様。孝治を含む後輩一同から、新たな尊敬の念を集めていた。


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