前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記U』

第四章 銀山道中膝栗毛。

     (6)

 孝治たち一行は、中国山地の真ん中辺りに到着。背後に広がっていた日本海が完全に見えなくなった所で先頭の秀正が立ち止り、東の方向を右手で指差した。

 

「よっしゃ、こっから東に曲がればよかっちゃね☀ こっからは鉱山まで、もっと深い森の道になるとやけどね☻」

 

 孝治も示された方向に顔を向けた。視界の先には鬱蒼{うっそう}とした樹海以外、なにも見えない情景が広がっていた。

 

「うわっちゃあ〜〜! すっげえ森と林ばっかしばい☠ こりゃ一度迷ったら、それこそ骨になるまで出られんとちゃうやろうねぇ☠」

 

「い、いや……森に入らんで、一本道ばまっすぐ行ったら……たぶん大丈夫っち思うとやけどぉ……☠」

 

 地図を手に持つ秀正も、どこか不安そうな顔付きをしていた。ところが、このような不穏極まる空気を打破する男が、荒生田という人物なのだ。

 

「ゆおーーっし! とにかくよけいなことなんか考えんと、この道ば、まっすぐ一直線に行きゃあよかろうがぁ♡ 裕志ぃっ! 景気付けにおまえの自慢のギターば弾いて、この場の雰囲気を明るくしろい☆」

 

「う、うん……い、いえ、はい!」

 

 場違いなまでに、ひとり盛り上がりの荒生田。そんなサングラス男から言われ――いや、ほぼ命じられ、裕志が背中にかついでいるギター🎸を構え直し、得意の曲の演奏を開始した。

 

「おっ、なかなかいいじゃん♡ 何度聴いてもいいっちゃねぇ〜〜♡」

 

 音楽の演奏ならば、孝治も賛成であった。それというのも、裕志は航海中も船上でときどきギターの演奏を行ない、船員たちから大きな拍手喝采をちょうだいしていたからだ。孝治もその中で、裕志の曲に聴き惚れていた。

 

 恋人の由香にも、すでにご披露済み――であるが、裕志のギターの腕前は、すでに大勢の人からの折り紙付きとなっているのだ。

 

『すてきっ♡ やっぱ音楽ってええわぁ〜〜♡』

 

 幽霊の涼子も、今やすっかり裕志のギターのファンになっていた。あくまでも音楽限定らしいけど(頼りがい無しは相変わらず☠)

 

それはとにかく、大森林の入り口のような殺風景極まる場所で、いつまでも演奏会を続けているわけにはいかない。

 

「じゃ、じゃあ、気分が乗ったとこで出発しよっか☆」

 

 まずは秀正が、初めからのとおりで先頭に立ち、森の道に一歩、足を踏み入れた。

 

 そんなときに突然だった。道の右脇にある藪{やぶ}の中からパチパチパチと、何者かが拍手をしているらしい音がした。

 

「あん? 誰や、おまえは?」

 

 荒生田が真っ先に、敵意をむき出し。腰のベルトから剣を引き抜いた。

 

 続いて孝治も、剣を抜いた。

 

「うわっち? 何モンね!?」


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2011 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system