『剣遊記U』 第四章 銀山道中膝栗毛。 (4) 「てめぇ〜〜らぁ〜〜、ようも敬愛すべき先輩様に対して、つまらん謀{はか}りごとばしてくれたっちゃねぇ〜〜♨」
「あわわわわわわ……☠」
両手の指と首の骨をポキポキと鳴らしながら、荒生田が孝治と秀正に迫る。
この三白眼サングラス😎男は、怒ると見境がない。それがわかっているだけに、孝治たちより先に危険を感じたらしい友美は、とっくに浮遊の術でマストの上へと逃走していた。
「孝治、ごめんねぇ☂」
「こん薄情もぉ〜〜ん!」
孝治の恨み節も、もはや後の祭り。絶体絶命の大危機であった。
しかしこのとき、孝治の頭にピンと閃{ひらめ}く💡アイデアが。
「そ、そうや! 先輩、おれが今から出すクイズに正解ばしたら、おれここで脱いでもよかですけぇ!」
「なぬっ! ほんなこつ?♡」
とたんに荒生田の顔から、怒りの色が消失。代わりに鼻の下がグゥ〜〜ンと、足元の甲板まで伸びていた。
秀正が当然ながら目玉を大きく開いて、孝治にその真意を尋ねてきた。
「よ、よかとやぁ? そげん恐ろしかこつ言うてからにぃ……☃」
もしかすると、ついに切羽詰まってトチ狂ったとでも思っているのだろうか。だけど当の孝治はいたって呑気に、簡単すぎる問題を、荒生田に問いかけるだけ。
「先輩、この船ん下には、いったいなにがありますか?」
「ん? 海やろ☁」
なにがなんだか訳わからんの顔で、荒生田が船上の手すりから、下の海面を覗き見た。そのガラ空きとなった尻を狙って、孝治は思いっきりにガボッと、激しく右足で蹴り上げた。
「正解っ!」
「わひぃーーっ!」
荒生田が悲鳴を上げてドッボオオオオオオオオオンンと、大海原に転落。ド派手な水柱が立ち昇った。
「エラいこっちゃあーーっ! 人が海に落っこったぞぉーーっ!」
高い水しぶきを見た船員たちが、一斉に船上で騒ぎ出した。しかし孝治は彼らの前に立ちはだかり、両手を大きく左右に広げた。
「大丈夫ですから☀ そげん慌てんでもよかですよ☀ あん人暑いっち思うたら、いつでもどこでも泳ぎまくる人ですけん♥」
口からデマカセは百も承知。とにかく孝治は口八丁手八丁で、船員たちの騒ぎを穏便に鎮めようとした。
「それにしてもお、だたねえ{だらしない}泳ぎ方じゃのう☠ あれじゃあ溺れとうようにしか見えんのお☢」
さらに船員のひとり(福井弁)が心配そうにつぶやき、救命用の浮き輪を海に投げようとした。だけどそのような救難行動でさえ、孝治は必死になって妨害。嘘八百で止めさせた。
「いえ、あれは先輩の自己流の泳法なんですよ☀」
「しかし、この辺りの海にゃあシー・サーペント{大海蛇}がようけおるけんのお☢ 早いとこ上がらせたほうがええぞお☠」
なおも年配の船員が、海面を覗きつつ忠告をしてくれた。それでも孝治は頑として、頭を横に振り続けた。
「よかっちゃです♥ あん人『ドラゴン・キラー』でも有名な人ですけん☀」
秀正もこのとき、孝治の虚八百にうんうんとうなずきを繰り返していた。ついでに裕志は甲板上にて、ただオロオロ😰としているばかり。さらに涼子は、友美といっしょにマストの棒の上で並んで座り、下での騒ぎをおもしろそうに眺めていた。
『ほんなこつ過激っちゃねぇ☻ また孝治の違った一面ば見ちゃったみたい☛ 孝治って、昔からあげなんやったと?』
「そうっちゃねぇ……☠」
外見だけではなく、中身も確実に変化しつつある孝治を上から見下ろし、友美は深いため息を洩らしていた。
「男ん子やったころは、今よりかずっとおとなしかったほうなんやけどねぇ……☁」 (C)2011 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |