『剣遊記U』 第八章 銀の清算。 (7) おっかなビックリの心境で、孝治も荒生田に続いて乗ってみた。実際に到津――銀のドラゴンの背中は、割と広め。かなりのゆったり感があった。
「では皆さん、出発するある✈」
それから全員が乗り込んだのを長い首で振り返って確認すると、到津は巨大な翼を、再び大きく羽ばたかせた。
もちろん本物のドラゴンなのである。その巨体が軽々、ふわりと宙に舞い上がった。人間を五人、背中に乗せるくらい、飛翔にはなんの差し支えもないようだ。
「友美、しっかり背びれにつかまっとれよぉ✊」
到津の背中には何本ものとがった角のような背びれが、頭部から縦一列に並んでいた。孝治はもちろんだが、友美もその内の一本をきちんと両手でつかんで、絶対に体が飛ばされないようにしていた。ついでで悪いが、秀正も同じ格好。
それでも少し心配なので、孝治は声をかけてみたわけ。友美だけに向けて。無論、友美の返事は決まっていた。
「わかっとうって✌ ありがと、わたしば気に懸けてくれてやねぇ♡」
「ま、まあ、それならええとやけどね♠」
ちょっと顔が赤くなった思いの孝治は、周りの男衆に聞こえないよう、そっとうしろにいる涼子にも、顔を向けて声もかけてみた。
「りょ、涼子はどげんや?」
『あたしやったら平気やけ☆ 友美ちゃんみたいに心配してくれて、ほんなこつうれしいっちゃね♡』
涼子はセリフで感じるとおりの、やはり感謝の面持ちになっていた。友美と違う点は、こちらは到津のしっぽの手前で、いつもの定番である体育座りの格好をしているところ。ただし友美を始め、肉体を持つ者たちとは異なって、彼女自体は吹き飛ばされる不安は、微塵も感じないのだけど。
「そ、そうっちゃねぇ〜〜♠」
涼子に関しては心配無用なことを、孝治は改めて認識した。
「涼子は幽体なんやけ、どげな強い風が吹いたかて、体ばスイスイ抜けちまうけ関係なしっちゃね♤ なんかうらやましい気もするっちゃねぇ☀」
『それば言われたら、あたしかてちょっと複雑な気持ちになるけどやねぇ☻』
そんなこんなで、ちょっぴりむくれてほっぺたをふくらませる幽霊少女であった。
また、これをちょっぴり可愛らしく感じる孝治でもあった。
「涼子もまだまだ、子供っちゃねぇ〜〜☺」
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