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『剣遊記U』

第八章 銀の清算。

     (6)

「ゆおーーっし! それじゃ話も済んだことやし、引き揚げるとすっけぇ!」

 

 到津の身の上話を面白半分――いや全部で聞いていたであろう荒生田が、ここでいきなり大声を上げて立ち上がった。

 

「はいよっと☆」

 

 先輩の号令に応えて孝治を始め、後輩一同も順次、地面から腰を上げた。すると到津が慌てた感じになって、全員を引き止めた。

 

「あっ! 皆さん、ちょっと待つだわね!」

 

「なんねぇ? まだ話が済んじょらんとね♨」

 

 これに荒生田は、むしろ面倒臭げな顔になって、銀のドラゴン――到津を、ジロッとにらみつけた。この男は一度相手を見下せば、とことん頭{ず}に乗る性格なのだ。

 

 そんな荒生田に向け、到津がかなり下手{したて}に出ている感じで訴えた。

 

「ワタシ、呪縛解けたいいけど、このあとなにもすることないあるだわ☂ そこで良かたら、皆さんのお仲間に入れてほしいだわね♥」

 

「なかまぁ?」

 

 荒生田の三白眼が点になった。

 

 この唐突である到津の申し入れに、孝治たちは早速、円陣を組んで話し合った。思えば二回目かも。

 

「急にあげんこつ言い出しようけど、どげんする?」

 

「よかっちゃやない♧」

 

「性格良さそうやしぃ♢」

 

「言うこと聞きそうやしぃ♤」

 

「便利そうやしぃ♡」

 

 これも、もはや誰がどのセリフを言っているかなど、どうでもよし。

 

「ゆおーーっし! 決まりっちゃね! 仲間に入れたやるったい!✌」

 

 まあ事実上の満場一致なので、これを鶴のひと声とは言わないだろう。だけど荒生田のなかば号令に近い格好で、到津の仲間入りが決定した。

 

 そんな荒生田の号令を聞いたであろう銀色のドラゴンが、翼を大きく、バサバサと羽ばたかせた。この行動はどうやら、彼の喜び表現であるようだ。ワンちゃんががしっぽを振るようなものか。

 

「皆さん、ありがとある! ワタシきっと、皆さんと仲良くするだわね♡♡」

 

 皆さんのお役に立つ――っち言わんとこが、到津さんのしたたかな防衛線っちゅうとこやろうねぇ――と、孝治は頭の中で、到津の本音を推察した。

 

 それはそれで良しとして、秀正が悲鳴を上げていた。近くの大木に、しっかりと両手でしがみついた格好をして。

 

「わ、わかったけぇ! やけん羽根で風ば起こすのやめちゃってやぁーーっ! 飛ばされちまうやろうがぁーーっ!」

 

 到津の羽ばたきによる旋風で、周辺が再び埃と土煙に覆われたのだ。それからしばらく突風を起こしまくってから、ようやく到津は落ち着きを取り戻した感じ。翼の大羽ばたきをやめてくれた。しかも予想外なおまけ付きでもって。

 

「それでは皆さん、ワタシの背中に乗るだわね♡ これせめてものお礼☆ 行き先言ってくれたら、ワタシ飛んで、皆さんの家まで送るあるよ♡」

 

 なんとドラゴンの背に乗っての遊覧飛行という、ふつうに生活していたら絶対に有り得ない、大サービスを申し出てくれたのだ。

 

「うわっち! ほんなこつ?」

 

 もちろん孝治を始め一同全員、このチャンスをみすみす逃すわけがなし。中でも一番物好きに違いない荒生田が、一も二もなく我先にと、到津の背中に駆け上がった。

 

「ゆおーーっし! それはありがたいこっちゃねぇ♪♫♬」

 

 こいつはいつも偉そうな大言壮語をぬかしているが、しょせんは謙虚や気配りとは、永遠に無縁な野郎なのだ。

 

 もっともこの性質は、孝治たち後輩一同も、けっこう似たり寄ったりだったりする。なので全員、喜んで到津のお言葉に甘えることとなったしだい。


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