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『剣遊記U』

第八章 銀の清算。

     (5)

「ワタシ、今より百年前、この国より遥か西にある大陸から、冒険でここ日本の島根の地まで飛んで来たんだわ ところが休も思うてこの山降りたら、いきなり領主と魔術師に捕まってしまったあるよ☠ そのとき魔術師、ワタシにこう言うた✍ 『今後おまえは銀山の番人となって、領主様のご意思が完全無欠に消滅する日が訪れるまで、未来永劫この地に留まらなければならない✊』とあるね☁」

 

「そうやったんけぇ〜〜♠」

 

 到津の話を聞きながら、孝治はうんうんとうなずいた。

 

「大陸から島根に来て百年も生きてきとうけ、何十年も前の話ば、今見てきたように言えるわけっちゃね☛ ドラゴンやったらおれたち人間よか、ずっと長生きやけねぇ♪ ついでに島根暮しが長かったもんやけ、言葉に島根訛りも混じったわけっちゃね⚤ ところどころ使い方が間違っちょうみたいやけど♞ それからやっぱ、あのレイスは領主の亡霊やったわけっちゃね☆」

 

 この一方、孝治の右隣りで体育座りをして到津の身の上話を聞いている涼子が、いきなり大きな声で憤慨した。

 

『それってひどい話やねぇ!』

 

 聞こえる人は、恒例パターンで孝治と友美だけなんだけど。

 

『勝手に人……やなかドラゴンさんば捕まえて、自由を束縛したまんま百年もほったらかしやなんち、レイスに天罰が落ちたんも当たり前ばい!』

 

 そのまたうしろでは、荒生田が両手をポンと打ち鳴らし、納得顔でうなずいていた。これも当たり前だが、涼子の憤慨が聞こえているはずもないが。

 

「なるほどぉ、それで領主のレイスが消えたもんやけ、そん呪縛も解けたっちゅうことやね☆☆」

 

(ここまで話が進んだら、そんくらい子供でもわかりますっちゃよ☹)

 

 孝治は内心で突っ込んでやった。もちろん声には、絶対に出さないようにして。

 

(それんしても、涼子の声が聞こえるはずなかっち思うとに、先輩と涼子が見事に連動しとうばい✍)

 

 これはついでである、孝治の不思議な思い。これもともかくとして、到津の話は続いた。初めの予想どおりに長話だった。

 

「そうある☹ ちなみにそのとき、到津福麿{いとうづ ふくまろ}言う日本名もらったある☧ 由来わからないけど百年もそれ使ってたら、それなりに愛着湧くあるけどね♡ それよりワタシ、呪縛ある間、いつまでもドラゴンの姿に戻れないので、銀山に強そうな人来るたびに領主やっつけてもらお思うて案内したけど、けっきょくみんな駄目だったある☂ みんな城まで来る前に、宝で挫折してばかりあるから☁」

 

(なるほどぉ、それなりに気に入っとうけ、自分こつ『福ちゃん』なんち言えるわけっちゃね✍)

 

 この部分のみ内心に留め、これ以外は声に出して、孝治は到津に突っ込んだ。

 

「それでおれたちに妙に親切にして、ここまで案内してくれた、っちゅうわけやね☝ それは良かっちゅうことにして、なんかおれたち、あんたにいいように利用されたみたいやねぇ☛」

 

 これにドラゴンの分際で、到津のほうが、見た目にわかるほどのタジタジ模様となった。

 

「ま、まあ、決して皆さんを騙したわけじゃないある……でも、これで良かたあるか?」

 

 などと、かなり苦しい言い訳を並べる始末。ドラゴンの威厳など、いったいどこにあるとやろっか――ってな感じを、孝治に抱かせるほどに。

 

 とにかく始めは、完全ビビりまくりの孝治であった。だけど銀のドラゴン――到津の話を聞いているうちに、なんだか恐怖感を囚われていた自分が、とても馬鹿らしく思えてきたりもした。

 

(人間の魔術師に簡単に捕まるくらいやけ、このドラゴン、大したことなかっちゃね✌)


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