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『剣遊記U』

第八章 銀の清算。

     (4)

 孝治は見た。光の威力に比例した、自分自身の長い影を。

 

「な、なんねぇ! 今ん光は!」

 

 驚きのあまり、孝治は我を忘れて、夢中で振り返った。

 

「う、嘘やろ……☜☝☞☟」

 

 孝治はへなへなと、その場で腰を落とした。ついでに荒生田や秀正、裕志も見事に腰を抜かしていた。そんな中で友美と涼子だけが、やんややんやと盛大な拍手喝采👏を大きく打ち鳴らしていた。

 

 一行の前に突如出現している、全身が銀白色のに覆われた、巨大なドラゴンに向けて(涼子の拍手は孝治と友美以外は聞こえないけど)。

 

「ほ、ほんなこつ……ドラゴンやったとね……✎✏」

 

 早くも完全ビビりまくりとなった孝治に、銀色のドラゴンが、到津の声で応えてくれた。

 

「どうある☆ これで信じてくれたあるか☀」

 

 声の質もしゃべり方も、野伏だった到津と、まるで変わる所はなし。

 

 その全長たるや、背景にある半壊している城と、ほぼ同じ。背中にはコウモリ型で、やはり銀色の巨大な翼が広がり、両手両足に伸びている爪は、大木を一撃で引き裂くであろうほどの鋭さがあった。

 

「し、信じるある……☁」

 

 今の自分の声が、果たして聞こえたのかどうか。孝治自身にもわからなかった。しかしこれが、しっかりと聞こえていた感じ。銀のドラゴン――到津が、いかにも満足そうに頭を上下に揺らしていた。

 

 その揺れる後頭部には六本の角が伸び、上アゴの真上(つまり鼻先)にも一本の大角が生えた、それこそ見るからに恐ろしげな表情。これが感謝の気持ちを表しているのだろう。大きなアゴで、ガチガチと牙を鳴らしていた。

 

 まるで大ワニを連想させるような、怖い顔付き。さらにズラリと並んでいる牙も恐ろしいが、両眼には到津そのものの柔和さが残っちょる――ような気も、孝治はしていた。

 

「なるほどぉ、これが噂に聞くドラゴンってやつけぇ✍」

 

 一度は腰を抜かしたものの、相変わらず立ち直りの早さはピカ一。荒生田が平気な顔をして、銀色のドラゴンにトコトコと近寄った。

 

「せ、先輩ぃ……そげん近づいたらぁ……危なかですよぉ……☢」

 

 いまだビビり状態でいる裕志からの忠告など、まったくの聞く耳持たず。荒生田が大胆にも、ドラゴンの左わき腹を、ポンポンと右手で軽めに叩いた。

 

「う〜む、色は銀やけど、さわった感じはもろ爬虫類っちゃね☀ 少しゃあ期待したんやけどねぇ♐」

 

「なん期待したっちゅうとや……あのおっさんはぁ☠」

 

 これも相変わらずで、訳のわからない先輩の行動と言動ぶり。孝治はもう、冷や汗大瀑布{だいばくふ}の思いであった。そんな荒生田に続いてだった。秀正もドラゴンに近づいた。もっともこちらは少々、及び腰ではあるけれど。

 

「ほんなこつ……凄かねぇ〜〜♋」

 

 その秀正がドラゴンの顔に寄って、ひとつの質問をした。

 

「……た、確かさっき、あんた領主の呪縛っち言いよったよねぇ……☁」

 

「はい、言うたある☺」

 

 ドラゴンがすぐ、秀正に答えた。秀正はツバをゴクリと飲むような感じで、さらに質問を続けた。

 

「……いったい、なんがあったんか……簡単でいいけ、教えてくれんね✐」

 

「はい、いいわや☆」

 

 それから秀正の問いに答える前に、到津は巨大な頭を空へと向けた。それから遠い昔を思い出すような眼になって、その恐ろしい容貌に似合わない、静かなしゃべり方で話してくれた。

 

 ただし話が長くなりそうなので、孝治を始め全員、この場の地面に腰を下ろすことにしたけど。


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