前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記U』

第八章 銀の清算。

     (12)

 『廊下は静かに⛔』にポスターも、見て見ぬふり。それよりも、いつまでも騒々しい話の展開に、孝治は少々うんざりな気持ちとなった。

 

「なんねぇ、また全員集合け?」

 

 だけど駆けつけた秀正は、孝治の不機嫌そうにしている顔に、気づく様子などまるでなし。勝手にまくし立てるばかりでいた。

 

「孝治ば捜して店ん中ば捜したら四階におるっちゅうけ、階段ば一気に走ってきたんばい! 旅帰りのおれば、こげな目に遭わさんでほしかっっちゃねぇ!」

 

 あげくの果ては、激しく咳き込む始末。

 

「ぐぅっほっ! げぇっほっ!」

 

 こんな秀正の(理由不明な)慌てようを見て、孝治は内心で開き直ってやった。

 

(おれが無理させたんやなかろうも☠ なんあせっとんのか知らんけど、おまえがひとりで頼みもせんのに、ここまで来たっちゃろうが♨)

 

 それから秀正の背中を右手で軽くポンポンと叩いて、孝治は格好ばかりの介抱をしてやった。そのついでに、またひと言。

 

「今回は惜しい結果になったっちゃねぇ☂ 秀正も律子ちゃんから、そーとーしばかれたっちゃろ☃」

 

 銀塊の鑑定結果は、すでに黒崎と勝美から友美を通じて、孝治たちにも伝わっていた。しかし、苦しい思いをした冒険の成果が不発で終わるなど、けっこうよくある話なのだ。これもよく聞く冒険者生活の一巻なので、孝治も秀正も、それほどの落胆はしなかった。

 

 だけど今回は、話はこれにて終了――というわけでもなさそうだ。

 

 秀正が言った。やはりぜいぜいと、荒い息を繰り返しながらで。

 

「その律子が、おれの留守中に、また別の宝ん地図ば、古本屋で見つけた、っち言うとたい!」

 

「うわっち! ほんなこつ!?」

 

 孝治もこれには、正直ビックリ仰天の思い。しかも力んでいる秀正の、汗まみれである右手には、一枚の新しくて古い(?)地図が握られていた。

 

「ここにあるんが、そん地図たい! やけど、信ぴょう性は石見んときよか、また遥かに低かっちゃけどね……で、どげんや? またおれと行くけ?」

 

「当ったり前やろうが✌」

 

 お宝の地図を見て聞いてしまえば、それはもはや冒険を生業{なりわい}にする孝治にとって、腹をくくる以前の話。これはもう、念を押されるだけ、野暮な行為と言うべきものだ。

 

「よっしゃ! 決定やな! 今夜は出発の前祝いで、また飲み倒すけねぇ!」

 

 孝治の返事など、初めからわかっていたようなものだろう。秀正が大きく気勢を上げた。そこへ黙って成り行きを見ていた到津も、ふたりの冒険者――孝治と秀正の盛り上がりに、どうやら感化をされたようだ。ついには我慢ができなくなったらしく、ふたりの間に割り込んできた。

 

「あの、ワタシも参加してよろしあるか?」

 

 もちろん孝治にも秀正にも、断る理由など、あろうはずがなし。

 

「当ったり前ですっちゃよ✌ また到津さんの背中に乗せてもらいますけね☺」

 

 孝治はすっかり、大空を飛ぶ爽快感に魅了されていた。

 

 それはとにかく、新たな宝探しが決定すれば、あとの話は早かった。冒険から帰ったばかりの三人(孝治、秀正到津)が顔をそろえて、夜の街へと直行。そのあとを、友美と涼子も追い駆けた。

 

 三人の冒険者の、懲りない後ろ姿を見つめながらで。

 

『ったくぅ、呆れるっちゃねぇ〜〜✄ 宝探しが失敗したばっかしやっちゅうのに、あん人たちって、学習能力っちゅうのが無いとやろっか?』

 

「冒険者って、あげな楽しか人ばっかしなんよねぇ☀ 涼子もそれが好きやけ、こん世界に仲間入りしたんやろ☞ それよか今夜は、わたしたちもお付き合いしちゃいましょうよ♡」

 

『そうっちゃね♡ あたしやっぱり、成仏なんち当分せんけね☆ だって、あげな楽しい仲間といっしょなんやけねぇ♡』

 

「そうばい♡ この世にお宝と夢がいっぱいある限り、わたしたちの冒険は絶対終わらんとやけね♡」

 

                                                 剣遊記U 了


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2011 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system