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『剣遊記U』

第八章 銀の清算。

     (11)

「それじゃ、これ☀」

 

「はい、ありがとある♡」

 

 孝治は到津に、部屋の合い鍵を手渡した。そのとき同時に、友美が階段を駆け上がってきた。

 

「孝治ぃーーっ!」

 

 ちなみに友美と同伴して涼子もいるのだが、こちらは到津には見えていないだろう、たぶん。

 

 すぐに孝治は、友美に尋ねた。

 

「おう、裕志の様子はどげんなった?」

 

 友美は帰り着くなり発熱した裕志を看病するため、いっしょに部屋まで付き添っていた。しかしどうやら、それも終わったようだ。

 

「裕志くんやったら、もう大丈夫やけ✌ 勝美さんがきっちり治癒の魔術ばかけてくれたし、それに今はなんち言うたかて、由香が看護に付いとうとやけね♡」

 

 それを聞いて、孝治もほっと、安堵の息を吐いた。

 

「ああ、それならもう任せとってよかっちゃね♡」

 

『でも、裕志って魔術師も、なっさけなかっちゃねぇ〜〜♥ 帰ったとたんに熱ば出しちゃうなんちねぇ〜〜♥』

 

 これは横から話に加わった、涼子のきついお言葉。だけど今回に限って、孝治は裕志に同情していた。

 

「まあ、そげん言わんとき☺ 今度の場合は特別やったんやけ☚ なんちゅうたかて、なんの備えもなしで、いきなり空ん上ば飛行したんやけねぇ☻」

 

 この先は言わないが、おかげで乗り物酔いと高山病、ついでに風邪まで併発したのだ。

 

 日頃、遠征でそれなりに鍛えているはずの裕志も、今回ばかりはどうも、いつもと勝手が違ったようなのであろう。

 

 孝治は思い出してみた。裕志が初めて荒生田に引っ張り出されて長い旅に出たのが、今から五年とちょっと前。そのときも帰り着くなり、すぐに発熱したと聞いていた。

 

 最近ではさすがに体も慣れて、少々の荒行にもへこたれない――と、孝治は思っていたのだけど。

 

(まあ、もしかしておんなじ状況におって、今もこげんして体ばピンピンさせちょうおれや友美んほうが、よっぽど変なんかもしれんっちゃねぇ☻♋)

 

 孝治は自嘲のつもりでつぶやいた。この声が聞こえたのかどうか、到津が申し訳なさそうにささやいた。

 

「ワタシ、なんだか悪いことしたみたいあるね☁ 裕志さんに、かなり無理させたのこと☂」

 

 なんだか責任を感じているようである。孝治はそんな到津を庇ってやるつもりで、ややしょぼくれ気味となっているドラゴンの化身に応じてやった。

 

「大丈夫ですっちゃ✌ 裕志かて冒険者の端くれなんやけ、基礎体力はちゃんとあると✍ ただ今回だけ、たまたまそうなっただけやけね☞」

 

「そうっちゃよ☜ 熱ももう下がりようけ、あしたには元気になるっちゃよ♪」

 

 友美も孝治に合わせてくれた。そこへ、やはりピンピンで帰ってきた男――秀正が、息を切らしながら、これまた階段をドタドタと駆け上がってきた。

 

「うわっち! なんしに来たとや?」

 

「孝治ぃーーっ! 捜したばぁーーい!」


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