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『剣遊記U』

第七章 銀の迷宮。

     (7)

 そんなこんなをしているうちに、必死な様子でドアの解錠を続けていた秀正が、ようやくその作業の終了を告げた。

 

「よっしゃ! 開いた!」

 

「ゆおーーっし! 開けてみい!」

 

 早速荒生田が剣を構え、偉そうに後輩たちに言った。すぐに秀正と裕志がふたり掛かりで、両手で力任せに、ドアを部屋の内部に押し込んだ。

 

 だが、長く放置をされていたためであろう。ドアはビックリするほど、全体が思いっきりに錆びついていた。おかげでギギィ〜〜っと気味の悪い音が、暗い地下通路全体に鳴り響く有様。おまけにやっと開いた室内は、完全なる暗闇の世界。すぐに発光球体の涼子が真っ先に飛び込んで、部屋の内部を青白く照らし出した。

 

部屋の中には、数えきれないほどの数のミイラが、所せましと折り重なって積まれていた。

 

「げえっ!」

 

 涼子に続いて、先頭に立って部屋に足(右から)を踏み入れた荒生田も、あまりの気色悪さで、さすがに吐き気を催{もよお}していた。

 

「うわっち! おえーーっ!」

 

 荒生田のあとから入った孝治も、もちろん同様のカッコ悪い有様となった。

 

「な、なんね、これぇーーっ!」

 

 これらミイラの他にも、古びた棍棒らしい木の棒や、やはり錆びついている刃物の類{たぐい}。ボロボロになっている皮製鞭{むち}のような長いヒモ。黒い沁みが付着している机や木製の台などが、大量に並べられていた。

 

 これらの状況から考えられる推論は、これしかなかった。

 

「ここっち拷問処刑の部屋ばぁーーい!」

 

 孝治は大声で絶叫した。

 

 さらに秀正と到津も遅れて、部屋の中に顔を入れた。

 

「うわぁ! 気持ち悪う!」

 

「な、なんとおぞいとこあるね!」

 

 盗賊である職業柄、得体の知れない建造物に、何度も侵入した経験があるはずの秀正であった。それでもやはり、死体を見るのは大嫌いだと、彼はずっと前に孝治に言っていた。ついでに到津も、言っていることは、孝治・秀正と共通していた。つまりこんな所は嫌――ということ。

 

「い、いったい……ここで何人死んじょるんやろっか?」

 

 ようやく最初の衝撃から少しは冷めて、孝治は部屋の中を再び覗いてみた。

 

すると驚いた事態! なんとミイラの内の何体かが、ピクリと活動を始めだしたのだ。

 

「う、うわっちぃーーっ! こ、こいつらグールになっとうばぁーーい!」

 

 孝治は一回目よりも、さらに輪を掛けた大きな声で叫んだ。おまけにうしろでは荒生田も、巨大な声を張り上げていた。

 

「は、早よここば閉めんかぁーーい!」

 

「は、はい!」

 

 涼子の発光球体が最後に飛び出したのと同時。孝治を始め、すぐに総出でドアノブを引っ張り、ドアがバタンと閉じられた。それからせっかく苦労して解いた鍵を、秀正が大慌てでガチャリとかけ直す。

 

「この馬っ鹿ちぃーーん! ちょんと中ば調べて開けんかぁーーい!」

 

 怒りをあらわに、荒生田がわめき散らした。だけど秀正も、今回は引き下がらなかった。

 

「そげん言うてもですよ、開けんと中になんがあるんかわからんでしょーーがぁ!」

 

 この間にも部屋に閉じ込めたグールどもが、中からドアをガンガンと叩く音が、暗い地下に響き渡っていた。

 

 いかにも、こっから早よ出さんかい! ――と、言わんばかりに。

 

 一応は頑丈そうな鉄のドアなので(錆びついてはいるけど☠)、これが破られる最悪の事態だけはなさそうだ。だけどこの音が響く間は、心臓が縮み上がるような恐怖感が、地下通路全体に充満していた。

 

 このような恐ろしい状況の下である。到津がぼそりとつぶやく声が、孝治の耳に聞こえていた。

 

「やっぱりこの城の主人、とてもとても陰険あるね♨ これ見よがしにこんなおぞい部屋作るなんて、ワタシだんだん腹立ってきたあるよ♨」


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