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『剣遊記U』

第七章 銀の迷宮。

     (6)

 それからまたしばらく地下道を進んだところで、ようやくなにかの部屋らしいドア(ごくふつうのドアノブ式)がお目見えした。

 

 まさに長い長い道のりであった。

 

「やっとおれの出番ちゃね☀ どうやら魔術の鍵はかかっとらんようやし、周りの警戒ばしっかり頼むけね☜☞」

 

 初めに友美に魔術がかかっていないはどうかを調べさせてから、秀正が鍵のこじ開けに取りかかった。

 

「よっしゃ、任せんしゃい♡」

 

 孝治も軽い返事をしてやった。すぐに涼子の霊光を頼りにして、秀正が鍵穴の奥を手持ちの携帯鏡に写しての、内部検査から始まった。

 

 ここで涼子が照明の役目を務めながら、こっそりと友美に尋ねていた。

 

『ねえ、秀正くんって、鍵穴ばわざわざ鏡に写して中ば覗きようとやけど、なしてあげな面倒なことしようと?』

 

「あれはやね♐」

 

 魔術だけではなく、盗賊の薀蓄にもくわしい友美が、小声でそっとささやいた。孝治も黙ったまま、こっそりと聞き耳を立てた。

 

「ここみたいな迷宮の扉やドアには、魔術系以外にも、どげな罠が仕掛けられとうのか、いっちょもわからんもんやけね☠ 例えば鍵穴ば覗いたとたんに中から矢が飛び出して目に突き刺さったりっとか、他に毒薬が噴き出したりするのもあるもんやけ♐⚠」

 

『わっ、怖っ! 盗賊もけっこう命懸けなんやねぇ⛔』

 

 友美の説明で、さすがの幽霊少女――涼子もビビったようだ。辺りを照らすオーラの光が、一瞬揺らいだように、孝治には見えたので。それと時を同じくしてだった。秀正の鍵穴検査が、一応何事もなく終わった模様である。

 

「よっしゃ、ここは大丈夫っちゃね☀」

 

 ここが仕掛けなしのふつうの鍵穴だとわかれば、あとはもう安心あるのみ。すぐに秀正が特製の針金を鍵穴に差し込んでの、解錠作業へと移った。

 

 この間、周囲を警戒している孝治に、今度は裕志が、そっと話しかけてきた。

 

「友美ちゃんの魔術って、ほんなこつ凄かっちゃねぇ♋」

 

 裕志は同じ魔術師の立場として、初めから涼子の発光球体のほうに、大きな関心が向いているようだった。ただし、それが友美の魔術によって創られているという、間違った前提に立っての関心であるけど。

 

「ぼくよか大きな発光球ば創って、しかもそれば、きのうからずっと持続しよんやけねぇ♋ それってすっごい精神力が要ることなんよねぇ✎」

 

「ま、まあ……そうっちゃね……☠」

 

 本当のことが言えない孝治は、返す言葉に困る心境となった。さらに当の友美など、明らかに冷や汗😅を流しながら、素知らぬ顔をして口笛なんかを吹いていた。

 

 そんな孝治と友美の素振りにはまったく気がつかない感じで、裕志の口調がだんだんと、愚痴――と言うか、自虐じみたモノへと変わってきた。

 

「それに比べてぼくなんか、言われて発光球ば創ったものの、これよりずっと小さいっち先輩から言われて、あっさり却下やったけねぇ☠ きのうは火炎弾の発射にも手間取ったし、やっぱりぼくって、魔術師に向いとらんのかもねぇ……☠」

 

「……そげなこつなかぁ……っち思うとやけどぉ……☁」

 

 なんだか自信喪失気味になっている裕志であった。孝治はそんな青年魔術師を励まそうと、なんとか言葉を探してみた。しかし肝心の褒める根拠に乏しいので、なんと言って良いのかがわからなかった。

 

 この状況をついに見かねたのだろうか、最初は知らんぷりを決め込んでいた様子の友美が、そっと裕志に声をかけた。

 

「そげなこつなかっちゃよ☀ 裕志くんかて立派な魔術師なんやけね✋ それと背中に背負{しょ}っちょるそれ……ギターっち言うたっちゃねぇ🎸 裕志くんは音楽ば奏{かな}でるんがとってもすてきっちゃけ♡ やけん、この旅が仕舞{しも}うたら、また歌って聴かせて! お願い!」

 

 これは一種の、別方面からのお世辞であろうか。だけど、友美のたったこれだけの励ましで、裕志は単純にも、一気に自信を回復させたようだ。

 

「うん✌ それなら喜んで弾かせてもらうっちゃよ♡」

 

 さらに元気回復の源{みなもと}である背中のギターを、いつもの演奏スタイルに持ち替えた。

 

「まさかこげな辺鄙{へんぴ}な場所で、ギターの演奏会ばおっ始めるつもりやなかろうねぇ?」

 

 孝治は疑問満載の思いでつぶやいたが、裕志はただ、格好をつけただけだった。ギターの演奏そのものまでは、さすがに実行しないみたいだ。

 

「なんや、ビックリさせるっちゃねぇ☻」

 

こんなせまい場所での音楽会など、それこそ音が大反響をして、両方の耳がおかしくなるところだろう。孝治はとりあえず、ほっとのひと息を吐いた。それはそれで良しとして、やはり孝治よりも友美のほうが、人の心の掌握術{しょうあくじゅつ}に長{た}けている――と、ここはすなおに感心するべきか。

 

「ぼく、帰ったら父さんに言うけ☀ やっぱりぼくは、魔術師よか吟遊詩人のほうが向いとるってね♥」

 

「う〜ん、わたしが応援していいかどうかわからんとやけどぉ……とにかく応援ばするけね♥」

 

「うん! ありがとう♡♡」

 

 この妙な成り行きで盛り上がる友美と裕志に、孝治はなんだか、ついて行けない気持ちになってきた。まあこの思いも、小声でつぶやくしかないのだが。

 

「友美もなんか困っとうみたいっちゃけど、とにかく軽い話やねぇ♠♣」


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