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『剣遊記U』

第七章 銀の迷宮。

     (15)

「……そう言えばぁ……今になって思い出して悪いっちゃけど、レイスって、確かに太陽の光に弱いっち、昔習ったような気がしてきたわぁ……✐」

 

「おれは知らんかったけどぉ……まあ、結果オーライっちゃね✍」

 

 友美の再度のつぶやきに、孝治は同感の気持ちでうなずいた。

 

 実際に友美がレイスの弱点を即座に思い出したとしても、霊光以外の一切の光が無かったあの闇の空間では、太陽光線どころの話ではなかっただろう。とにかく偶然でも、弱点が発覚。それでレイスが消えてくれれば、この場は万歳🙌といったところか。

 

 そんな納得の仕方をしている孝治の背中をバッチィィィィィィンッと、荒生田が思いっきりにひっぱたいてくれた。ある人に似ているが、これも予告も脈絡もないやり方で。

 

「うわっち! 痛かぁーーっ!」

 

 孝治の悲鳴などお構いなしで、荒生田が大袈裟に褒め上げてくれた。

 

「やるっちゃねぇ、孝治よぉ! おめえレイスの弱点ば実は知っちょって、それで壁ばぶち壊して太陽に当てさせたっちゃろーが!✌ いや、実を言うとオレもそうやなか? っち思いよったっちゃねぇ♡☀」

 

 先ほどの怒りは、いったいなんだったのか。このような先輩の御都合主義とド迫力を横目にしている友美が、小声で孝治に、こそっと尋ねた。

 

「それっち、ほんなこつ? たった今『知らんかった⛔』っち言いよったんやけどぉ☁」

 

「うわっち! ぶるぶるぶるっ!」

 

 孝治は大きく、頭を横に振った。真相はヤケッパチの暴挙が、運良く効{こう}を奏{そう}したに過ぎない話であるだけに。

 

 一方で、荒生田先輩のいい加減ぶりを熟知している秀正と裕志は、この大騒ぎを無視。床に散らばっている銀のカケラを拾い集め直していた。

 

「なるほどやねぇ……⚠」

 

 孝治にはふたりの考えが、だいたいわかっていた。レイスがあれで完全に滅んだと、果たして言い切れるのだろうか。だから逆襲が来る前に銀を拾えるだけ拾って、早くここから逃げようということなのだろう。

 

 だが事態は、それ以上に緊急を要していたのだ。

 

 孝治はこのとき、レイスが消滅した空間を、ジッと眺めている様子の到津に気がついた。

 

「うわっち? なんしよんやろ☞」

 

 孝治はそんな到津に、声をかけようとした。だけどそれより前に、到津のほうがようやくほっとひと息吐いたような顔になって、外に背を向けて室内に振り返った。レイスが完全にいなくなったことを認識したので、心の底からの安堵を感じているのだろうか。

 

 だが次の瞬間だった。到津の顔がひと安心から驚愕へと変わったのを、孝治は見逃さなかった。

 

「到津さん! どげんしたと!」

 

 こちらもビックリ仰天になって、孝治は大声で到津に訊いた。すると彼は両手の人差し指で、部屋の天井や壁のあちこちを指差して回って叫んだ。

 

「た、大変あるぅーーっ! この城崩れるわやぁーーっ!」

 

「うわっち! ええーーっ!」

 

 言われて孝治も、天井や壁のあちこちをキョロキョロと見回した。

 

「うわっちぃーーっ!」

 

確かに天井や壁のあちらこちらに、無数のひび割れが走っていた。しかもそれが、見る間に周辺へと広がり、ボトボトと石の破片や埃などを床に落としていた。

 

「皆さん逃げるあるぅーーっ!」

 

「うわっち! みんな早よ逃げやぁーーっ!」

 

 到津と孝治のふたりで、そろって大声を張り上げた。

 

「ぬぁんやとぉーーっ!」

 

 もはやこのふたりだけではなく、荒生田を始めとする全員が、超危機的事態を認識した。そのとたん、天井がバリバリと、激しい音を立てて崩落を開始。さらに床全体が、急激に断崖側へと傾いていった。

 

 これでは全員、到津を疑う余地などなかった。

 

「こらあかん! みんな逃げるったぁーーい!」

 

「は、はいぃーーっ!」

 

 荒生田を先頭にして、秀正たちも銀を詰めた袋をかつぎ直し、大慌てで部屋から外の通路へと飛び出した。

 

 背後から轟{とどろ}く、地下室と崖が崩れる轟音を耳に入れながらで。


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