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『剣遊記U』

第七章 銀の迷宮。

     (1)

 太陽の光は、地の底まで届かない――いや、届くはずがない。

 

 やがて陽{ひ}も落ちるであろうが、そうでなくても城内の地下は完全に、また常に漆黒の闇に包まれている。

 

 そんな古城内への潜入に成功した孝治たちであった。だけど、きょうのところはもう、行動できる時間が残り少なくなっていた。そうなると、このあとの選択肢は、ふたつだけ――となる。

 

 ひとつはいったん城から出て、外で野営を行なうケース。

 

 もうひとつは城内で安全と思われる場所を探し、そこで宿泊をするケース。ただし、城内を選択した場合、どうしても欠かせない必需品がある。

 

 照明である。

 

「みんなぁ、ちょい待っちょって♥」

 

「なんねぇ、早よしいやぁ♠」

 

 城内の地下一階通路で、孝治は荒生田たちからいったん離れて、別行動を取った。それは友美と涼子だけを連れ、通路の先にある角に身を隠すことだった。

 

 涼子が創り出す『灯り』とやらを、荒生田や秀正たちから見られないようにするためである。

 

 今のところは枯れ枝に間に合わせで火を灯しているのだが、それもいつまで持つかわからない。事態{こと}は急いでいるのだ。

 

「ここら辺で良かっちゃね♢ じゃあ、早く灯りば創ってくれんね♥」

 

『良かよ♡』

 

 孝治は早速で、涼子に両手を合わせて頼み込んだ。これに涼子は、いかにも軽い感じでうなずいてくれた。

 

 このあまりの気安さゆえに、孝治は幽霊が創り出すという光とやらを、いまいち信用できない気持ちのまま、成り行きを黙って見守るしかないのだ。

 

 ところが涼子は、特に呪文を唱えるわけでもなし。空中に浮かんでいる自分の裸の体を、体操座りの姿勢で丸めるだけでいた。

 

「あっ! これって前に見た、あれかも!」

 

 幽霊の『灯り』に興味を感じているのは、魔術師である友美も同じであろう。その彼女になにか、心当たりがあるようだ。しかもどうやら、その『心当たり』のとおりらしい。孝治と友美のふたりで見ている前だった。涼子の幽体がしだいに丸く円形となり、その大きさが、ぐんぐんと凝縮。さらに小さくなるにつれ、人間形体のときにはほとんど目にしなかったオーラ{霊光}が、その輝きの度合いを強めていった。

 

 やがてそれが、人の握り拳大にまで縮小化。そのころにはもう、通路のかなり奥のほうまでが見えるほどの、青白い光を発するようになっていた。

 

 ここで友美が、記憶に留めていたらしい『心当たり』を口にした。

 

「わたし……話に聞いたことがあるしぃ……涼子がいっちゃん最初にわたしたちん前に出てきたときも、こげな感じやったやない☆ ウィル・オー・ウィスプ{鬼火}って、こげな感じってね☀」


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