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『剣遊記W』

第四章 激! ワイバーン捕獲死闘編。

     (13)

 このような窮地でワイバーンが火を吐けば、それこそ万事休す。

 

 ところが不思議。洞窟に乱入したとたん、ワイバーンがなぜか、火炎放射をやめていた。

 

「はれ? あいつ……なして火ぃ吐かんとや?」

 

 孝治の疑問に友美が答えてくれた。

 

「たぶん、こげなせまか場所で火ぃ吐いたら自分かてただでは済まんっちこと、知っとるんやなかろうかぁ✍」

 

 なるほどぉ……と、孝治は納得の相槌を打った。

 

「そげんことやね☆ あいつなんかの理由でもあって、そういうことば知っとるんばい✌」

 

「きっとそうっち思うけね✌ なんか知らんけど、前にそげな経験でもあったとかも☞」

 

 友美との会話で、孝治はたった今までワイバーンは頭が悪いものと決め込んできた自分の偏見を、どうやら改める必要性を感じた。

 

 一般的に知能が低いと勝手に決めつけられている動物も、くわしく研究をしてみると、意外に高度な知性を備えている例が多いものである。

 

 それはまあ、それでけっこう。だが今の場合でいえば、やはり頭が悪かったほうが良かったかもしれない。なぜなら火炎放射をあきらめたらしいワイバーンが、今度は猛烈な勢いで洞窟内の岩石や鍾乳石を蹴散らし、孝治たちを追って進撃を再開させたからだ。

 

 飛び道具(火炎)が駄目なら、実力行使ってところか。

 

「みんな早よ走らんかぁーーい! 出口はもうちょいやぁーーっ!」

 

 沢見が叫んだとおり、洞窟の反対側は目前。しかも今度は入り口と違って人間ぐらいの動物が、やっと通れるほどの大きさと幅しかなかった。

 

「どけどけどくったぁーーい!」

 

 自分勝手の権化――荒生田が、真っ先に洞窟から外へと飛び出した。

 

 続いて沢見、沖台、孝治と友美など、全員が団子の状態。

 

「こ、こらあ! 押すんやないでえ!」

 

「兄貴こそ早よ出てくださいよぉ!」

 

「友美ぃ! 早よ出ぇーーっ!」

 

「孝治ぃーーっ!」

 

 それでもなんとか、脱出に成功。

 

「わぁーーん! 誰かぁーーっ!」

 

「うわっち! 裕志ぃーーっ!」

 

 最後に逃げ足が一番遅かった裕志を、孝治は右手をつかんで引っ張り出した。

 

これにて全員、洞窟内から逃げのびたわけ。

 

 なお出口の周辺には、入り口付近と変わらない森林が広がっていた。だからと言ってまだまだ、到底安心できる状況では、とてもなかった。

 

 喜ぶには、あまりにも早すぎるのだ。

 

「早よこっから離れるんやあーーっ! ワイバーンが顔出すでぇーーっ!」

 

 沢見の号令で、全員洞窟の出口から、全速で飛び離れた。

 

それからまもなくだった。グアゴオオオオオオオッッとワイバーンが、凶暴な鼻ヅラを、出口からドカンと飛び出たせた。


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