『剣遊記Y』 第五章 巌流島の決闘。 (23) 大門の言うとおりだった。板堰は今にも彦島に消えつつある夕陽を背景にして、闘いに有利な位置を獲得済みにしていた。
真の戦士は、すべての状況をおのれの味方とする。これは勝利を必ずつかみ取るための、勝者の鉄則なのだ。
しかも西から差す夕陽ほど、目に痛い光線は他にない。これでは荒生田に板堰の姿が見えているのかどうかさえ、第三者の位置からでは、まったくわからない有様である。
だが、たったひとつだけ、剣豪も油断をしているものがあった。
荒生田は、サングラスをかけているのだ。
いくら夕陽をまともに受けても、荒生田の眼球は紫外線から多少ではあるが、保護をされていた。おまけに対戦者の姿さえ、実際にはよく見えていたらしい。
さらに――これこそ奇跡。
「うわあっ!」
剣豪板堰が、誰も予想をしなかったうめき声を上げた。
「な、何事だ!」
大門たち観衆も、一斉に席から立ち上がった。
「うわっち! あれってぇ!」
騒ぐテントの面々の前で、孝治はすぐに気がついた。
「先輩のサングラスが、夕陽ば反射したんばい!」 (C)2012 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |