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『剣遊記Y』

第五章 巌流島の決闘。

     (20)

「あやつ……わしが思うとった以上の、とんでもない大うつけモンじゃわい☠☢」

 

 明らかなピンチにも関わらず、軽い調子の荒生田であった。そんなサングラス戦士を目の当たりにして、再びテントの下に戻った大門は、もはや呆れ返ってなんの評価もできない心境でいるようだ。ところがこれに、丸椅子に座ったままでいた沙織が、ここで冷静な言葉を返してきた。

 

「確かにそのようですわね✐ でも同時に荒生田さんには、なにか底深い力も感じさせますわ✈ これはちょっと、表現がむずかしいのですが✉」

 

 ついでにこの本音は、決して口から出さないようにした。

 

(だからこそわたしたち、そこんところにすっごい期待をかけてるんだからぁ♡)

 

 その真意はともかく、決闘から瞳{め}が離せなくなっている沙織。その背後から、このとき人知れず忍び寄り、そっと話しかける者がいた。

 

「どんただだったや、沙織ぃ? おめさに言われだどおり、風で砂さ巻き上げてみたんだども……なんだかふたりの邪魔さしだみでえで、なんか悪い気持ちだなぁ☹」

 

 泰子であった。いつの間にやら、未来亭給仕係の制服姿をしたシルフの彼女が、テントの中にいるのだ。

 

 これに沙織がやや控えめながらも愉快そうな瞳を向け、大門たちには聞こえないよう、これまたそっと小さな声でささやき返した。

 

「ううん、これでいいのよ✌ なんと言っても剣豪の圧倒的勝利じゃ結果がわかり過ぎちゃって、ちっともお店の利益にならないんだもん✍ だから少しは公平にして、勝負をおもしろくしなくっちゃね✌」

 

「そんじゃあ、もう一回やるだか?」

 

 こちらまで苦笑気味となっている泰子の問いに、沙織は今度は、頭の横振りで応じた。

 

「いえ、もういいわ✌ なんだかわたし自身がこの先の見えない闘いに、なんだか興味湧いちゃったからぁ☆」

 

「相変わらずなんだがらなぁ☻ 沙織って、いつもさっと気まぐれなんだがらぁ☺☻」

 

 戦士同士の本格的死闘を瞳の前にして、無邪気にささやき合う女子大生ふたり。彼女たちがなんらかの企みを進行中であるのは、ほぼ間違いのない雰囲気であった。


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