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『剣遊記Y』

第五章 巌流島の決闘。

     (17)

「な、なにぃ!?」

 

 誰もが予想もしなかった意表の突かれ方に、板堰の動きが、一瞬だが硬直した。また、それを見計らったかのように、荒生田がさらなる追い打ちをかける。気合いの入った啖呵を、矢継ぎ早に投げつける攻勢の繰り返しで。

 

「決闘するモンが、剣の鞘ば捨てるもんやなかぁ! 勝者なら闘いが済んで剣ば収める鞘っちゅうもんが要るっちゃろうがぁ! やけど反対に負けてくたばるモンに鞘は要らんけねぇ! そげんっちゅうことで、板堰っ! おまえは鞘ば捨てた! やけんこの試合、オレの勝ちやけねぇ!」

 

「……わしゃあ別に、鞘を捨てとりゃせんがのぉ……☁」

 

 一時的絶句に囚われたらしい板堰は、どうにかして無理を重ねるように言葉をつむぎ出していた。しかし、もはや先ほどと比べて、半分以下の迫力しかなかった。これでは荒生田の策略によって、完全に出鼻を挫かれた格好とは言えないだろうか。

 

「ばぁ〜か☀ ハッタリばい、ハッタリ☆」

 

 そんな剣豪の有様を見て、してやったりとばかり、荒生田が豪快に高笑い。

 

「こんくれえのハッタリで動揺ばしちゃってくさ✌ 剣豪が聞いて呆れるっちゃねぇ☻ こげんなったらオレんほうから先に行かせてもらうっちゃけね!」

 

「ぐっ! こ、来いっ!」

 

 荒生田がボートから飛び降り、それを板堰が迎え撃つ。

 

 木刀と木刀がガキッと、激しく衝突。硬質の木材同士がまともにぶつかり合う反響音が、周辺に広く木霊する。

 

 一方、荒生田が飛び降りたあとのボートでは、裕志が先輩の闘いぶりをのんびりと眺めながら、どこか他人事のようにぶつぶつとつぶやいていた。

 

「先輩、ずっと前に宮本武蔵の漫画ば読んで以来、今んセリフばいつか自分で決めてみたいっち言いよったけねぇ……でも、相手が鞘ば捨てんでも言い切ってしまうなんち、ぼくかて思ってもみんかったっちゃねぇ〜〜♋♐」


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