『剣遊記Y』 第五章 巌流島の決闘。 (15) そんな一同が見守る前だった。小型ボートが砂浜に接岸。乗っているふたりの姿が、さらに鮮明となった。
ボートのオールを漕いでいた黒衣の男性――これは裕志に間違いなし。それよりも問題な人物は、ボートの舳先で木刀を構えて、意味もなしにカッコつけている男。
「あの黒いサングラス……やっぱし荒生田先輩っちゃよ!」
孝治は断言した。実際荒生田のトレードマークといえば、あれしか他に無いだろう。あとはリーゼントの髪型くらいなものか。
だが、荒生田はなぜこれほど遅れたのか。理由はいつの日か尋ねるとしよう(もっともヘソ曲がりである荒生田が、簡単に答えてくれるとも思えないが)。とにかく孝治は先輩が現われたので、ほっと胸を撫で下ろす気分になっていた。
「やっと来てくれたっちゃね☆」
「ああ、これでおれたちゃ、先輩ば軽蔑せんで済んだっちゅうわけたい☺」
「そうそう、そげんこと☀」
孝治のうしろに立つ秀正と正男も、それぞれうれしく思っている感じでいた。 (C)2012 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |