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『剣遊記Y』

第五章 巌流島の決闘。

     (11)

「なんぼなんでも、ええ加減遅すぎるんではないですかな? 大門殿☠」

 

 ある意味商売敵{がたき}ともいえる下関市衛兵隊長から厭味をささやかれ、大門の面目は、崩落寸前となっていた。

 

「は、はあ……し、しかしぃ、まだ夕刻ではございませんのでぇ……もうしばらくお待ちくだされませんか……☁」

 

 ここはぐっと怒りと屈辱に耐え、大門は顔面汗まみれでの対応に苦慮するしかなかった。

 

 決闘自体は荒生田が来なければ、板堰の不戦勝で終了する。だが、そのような盛り下がった闘いでは、各地の名士を集めた大門の面子が、見事丸潰れの結果となる事態は必定。

 

(うおのれ、荒生田ぁ! この試合逃げたとあらば、今度こそ虎徹の錆びにしてくれん!)

 

 かなり時代錯誤的な憤怒で、大門の体は無意識、貧乏ゆすりを始めていた。この一方で沙織は、北九州市衛兵隊長の苦しい立場など、まるで知らんぷりの態度。なぜか涼しい顔付きをしていた。

 

 それもそのはず、沙織の周囲には時々、小さな旋風{つむじかぜ}が渦を巻いていた。このおかげで沙織は、本当に涼しい思いをしているのだ。


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