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『剣遊記\』

第一章  岸壁の給仕係。

     (13)

 記憶力にいささか問題があったとしても、いったん思い出しさえすれば、あとの話は早かった。

 

 孝治、友美、涼子の三人が荒生田先輩といっしょに、島根県の石見まで銀山を求めて冒険した日々は、もうずいぶんと昔の話になる。そのとき途中まで乗船した船にいた者が永二郎であったのだ。

 

 今さら詳細を申すまでもないけれど、船上で荒生田がいやらしい真似をやらかそうとして、逆に孝治は海へと蹴り落としてやった。このとき永二郎が海に飛び込んで荒生田を救助したという話なのだが、彼の体は水中に入るなり、劇的な変化を遂げたのだ。

 

 いきなり服を上も下も全部脱いで海面に飛び込んだかと思えば、永二郎の全身が見る間に膨張。体色も肌色(かなり色黒だけど)から、白と黒のツートンカラーに変色。両足が縮んで、お尻から尾鰭が伸び、背中からも巨大な背鰭が生えてくる。

 

 涼子は永二郎の変化――と言うより変身を見て、確かに叫んだのだ。

 

『永二郎ってぇ、ワーオルカ鯱{しゃち}人間}やったっちゃねぇーーっ!』


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