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『剣遊記 番外編Y』

第三章 美女が液体人間。

     (8)

 律子は正直、心底からたまげていた。

 

 女盗賊の猛者とはいえ、なんの心の準備もなし。急に他人の怒声を耳に入れたら、やはり心臓がドキッとするものだ。

 

「そ、そこ、誰かおるとね!」

 

 間抜けを承知で、律子は部屋の奥に声をかけてみた。それと同時に思い出した。

 

「……そげん言うたらなんやけどぉ……わたしらよか先に、ここに来とうのがおったばいねぇ✍ すっかり忘れとったばい✋」

 

「先に来とったっち……足跡の人たちばいね✄」

 

 秋恵も遅れて、思い出した感じになっていた――とは言え、後悔先に立たず。

 

「まあ、これはこれでしょんなかばい☻」

 

 今になって思い出しても、それはもはや意味がなし。事ここまで至れば、今や開き直りしか道がなかった。

 

 実際そのように考えれば、いくらか気が楽になってきた。律子は部屋の先客に向けて、簡単な気持ちで声をかけ直してみた。

 

「これはどうも、失礼しましたばい☻ そやかて初めに言うとくばってん、わたしらはただ盗賊修行に来とうだけたいね✈やけん別に、あなたたちの休憩ば、邪魔しに来たわけやなかけんね⛔」

 

 ところが今の言葉――と言うか開き直りに対する返答は、明らかに律子の声音を知っているモノであった。

 

「ん? そん声は、穴生律子っちゃね☛」

 

「えっ?」

 

 律子は瞳が点の思いになった。このような話の展開になれば、当然律子のほうも、男の声に聞き覚えあり――と言えた。

 

「そ、そげん言うあなたの声っち……えぇ〜っと、そうそう、なっつかしいばいねぇ✌ 炉箆裸{ろぺら}やなかね☚ なんね、先に城に来とったんは、あんたらやったんやねぇ☻」

 

  『あんたら』と言った理由は、部屋の奥からゾロゾロと湧いて出た者が、当の炉箆裸だけではなかったからだ。あとから十人ものヤローどもが、続々と顔を出してきた。

 

 「せ、先輩……あいが人たち……お知り合いなんですけ?」

 

  律子の背中に隠れて、秋恵がそっと小声で尋ねた。律子はなんだか、苦笑がいっぱいの気分になった。

 

 「ま、まあね☻ 昔ん知り合いにはええ知り合いとやおない知り合いがおるっち、それは誰でもおんなじばってん、こいつらあんまし、やおないほうの典型やねぇ☢ なにしろわたしが盗賊学校に通いよったときからのつぁーらん連中でくさぁ、近所でも評判のえげつない悪ガキやったんよねぇ☠」


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