『剣遊記 番外編Y』 第三章 美女が液体人間。 (7) 城内での盗賊実地研修は、それ以後大きな支障もなく続けられ――ているつもりなのだが、本当は終始徹哉によって振り回されっぱなし――これが現状だった。
「先輩……なんかいじくそきゃまぐりましたねぇ☹」
盗賊初心者であるためだろうか。秋恵のほうが、精神的に参っている様子。通路の床の上に体操座りで腰を下ろして、深いため息を吐いていた。
「同感ばい……☠」
もちろん律子も、いつもの調子を完全に攪乱されている状態。感じる疲労度も、たぶん後輩と同じだろうと、自分で苦笑気味に思っていた。やはり秋恵と同じように体操座りで座り込み、後輩とは背中合わせの格好になっているので。
「わたしかて長いこと盗賊稼業で生計ば立ててきたとばってん、きょうみたいに心身ともこげんなんかかるほど疲れたんは、今回が初めてばい☠ しかも本格的な冒険やのうて、こげな初歩の練習の場でやねぇ☁☂」
だけどふたりともわかっていた。今回の疲労困ぱいの最大の元凶は、明らかに怪人徹哉の存在であることを。その怪人は床の上でへたばっている女盗賊ふたりには、あまり関心を示していないご様子。ひとりで城内の探索を続行していた。ただしあくまでも、指導者である律子の目の届く範囲内において――であった。
それからしばらくして、制限されている行動に、飽き足らなくなってきたようだ。
「律子サン、コノ廊下ノチョット先ニアル部屋ヲ、マダ調ベテナインダナモシ。今カラボクガ見テモイイノカナ」
いったんふたりの前まで戻り、地下通路の右端の方向を、右手で指差してくれた。他の部屋は大方見て回ったのだが、確かに徹哉の言うとおり、その部屋だけは、まだ手付かずになっていた。
「……勝手にしんしゃい☠」
こげな怪人物なんち、もうこれ以上付き合いとうなか――そんな思いで律子は、ぶっきらぼう丸出しで返事をしてやった。このあと未来亭に帰ったら、黒崎店長に思いっきり文句をぶち撒け、教育料ばふとうふんだくってやるとやけ――とも考えながらで。
「デハ行ッテクルズラナンダナ」
とりあえず許可(?)らしいひと言を受けたので、徹哉が小走りになって奥の部屋へ向かった。その次は、最初にドアを開いたときと同じ。バキッとまたも、強引にドアノブを引っ張っての、破壊工作をしてくれた。
つまりが再び、ドアを壁から引っぺがしてくれたわけ。
「あ〜あ、これでほんなこつ、二度とこん城には入れんかもしれんばいねぇ〜〜☢」
すでに半分あきらめの境地にある律子は、その部屋の中になにがあるのかなど、まったく興味が湧かなかった。ところがその開いたドア――というよりも壊したドアの奥から、いきなりドスの効いた男どもの声が響いたのだ。
「な、なんや! 誰っちゃね、おまえはぁ?」
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