『剣遊記 番外編Y』 第三章 美女が液体人間。 (5) ここで力を込めて揺すりまくったのが幸いしたのか。それとも実は、最も効果的な方法だったのか。徹哉の口がポッカリと開いて、ようやくまともなセリフが言えるようになった。
「ヤ、ヤア……ボクトシタコトガナンダナ。少シ寝テタヨウナンダナデゴワスタイ」
「良かったぁ☀ 気ぃ確かばいね☄」
律子もほっと、安堵の息を吐いた。
「それよかあんましビックリさせんやなか! わたし本気で、あんたがどげんかしたんやなかろっかっち思うたとばい♨」
それでもやっぱり、徹哉のポーカーフェイス😑ぶりは、先ほどまでと全然変わらなかった。
「ハイ、ボクハ大丈夫ナンダナ。バッテンコレハ心配ヲカケサセテ、トテモ悪カッタンダナ」
「これから気ぃつけるとよ♐」
「ハイ、ナンダナッチャ」
この話の展開では本来ならば、律子のほうが気をつけなければならない立場であろう。だけどそこは、女猛者の勝手な論理。徹哉に責任と原因を押し付けた格好で、律子はこの場での騒動を収めた格好にしてのけた。
しかし秋恵は、このとき気がついていた。自分の足元に、なにかキラリと光る物がひとつ、転がっていることに。
「なんやろっか、これ?」
秋恵はそれを右手でひろい上げ、ジックリと眺めてみた。
「なしてこがんな所にネジが落ちとうとやろっか?」
今律子たちのいる場所は、石造りである古城の地下通路。どこをどのように見回しても、金属製器具を使用しているような柱や家具は見当たらなかった。
「変ばいねぇ……誰かの落としモンやろっか?」
しかし疑問は胸の中でふくらむものの、そのネジ自体は、どこにでも落ちていそうな小物である。ちなみにプラス式。
「まあ、よかばってんね♠」
これは深く考えても仕方のない話。秋恵は拾ったネジを、ズボンの右ポケットに、さっさと仕舞い込んだ。
別にほしいと思ったわけでもなし。ただなんとなくの成り行きで。
けっきょくこのあとネジの件は、すぐに忘却の彼方へと消えていった。それからネジ一本に、秋恵が気を取られていた間にだった。
「あん! 先輩、待ってって言いろーもん!」
律子と徹哉はふたりだけで、今開いたばかり(壊したほうではなく、ちゃんと開錠したほうのドア)の部屋の中に入っていた。 (C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |