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『剣遊記 番外編Y』

第三章 美女が液体人間。

     (4)

「ドウナンダナ。『一秒』ノ意味ガコレデワカッタノカナ」

 

「す、凄かぁ……♋」

 

 秋恵はすなおに、驚きの表情をあらわにした。反対に徹哉のほうは、これほどの力技を見せつけておきながら、ドヤ顔は一切なし。相変わらずポーカーフェイス😑のままでいた。

 

 ところが律子は、これまた過激な反応を引き起こしていた。

 

「馬鹿ちぃーーん!」

 

 しかも、いつの間にか右手に構えているハリセンで、ネクタイ青年の後頭部を、思いっきりにしばく怒り心頭ぶり。

 

「あんたねえ! こん城はわたしら盗賊の練習場みたいなとこで、開けた鍵は絶対元どおりにしとかんといけんっちゅう決まりがあるとばい♨ やっちゅうのにこげんドアばちゃげしてもうたら、もう二度とここがつぁーらんごつなってしもうとばい☠ こん落とし前、どげんつけるつもりねぇ!♨」

 

 自分たちの現在いる場所が閉ざされた空間――地下のせまい迷宮であることも棚に上げ、律子は大声を張り上げての大絶叫を繰り返した。もう大事なお客様も、一切関係なしだった。

 

 だがこのとき、驚くような事態が起こった。律子に殴られた徹哉が、突然訳のわからないうわ言をわめき始めたのだ。

 

「ガガ……ピピピッ……コチラひゅーすとんナンダナ……本日天気晴朗ナレド波高シ。絶好ノ洗濯日和ナリ……」

 

「ちょ、ちょっとぉ! なんば変なこつ言いよっとねぇ!?」

 

 律子はそんな徹哉の背広の胸倉を両手でつかんで、上下左右にドサドサと揺さぶった。しかしそれでも青年の目線は、どこか上の空の方向を向いているだけでいた。

 

「ガギギギギ……すいっち、おん、わん、つう、すりぃ……」

 

「せ、先輩……もしかしてこれってぇ……頭ん打ちどころがぞーたんのごと、ようなかったんじゃなかですかぁ?」

 

 なおも意味不明なうわ言をほざき続ける徹哉を見て、秋恵が心配と好奇心をゴチャ混ぜにしているような顔となった。その真逆で律子は、自分の顔面から血の気が大量に、ササァ〜〜っと引いていくような気になった。

 

「じょ、冗談やなかばい! 店長から預かった大切なお客さんば、わたしがこげん傷モンにしてしもうたら、わたし未来亭ばクビになってしまうったい☠」

 

「やとしたら、あたしかて連帯責任っちゅうことになりますばい☢ ふたりで新しか職場ば探しませんけ?」

 

「やけん、それば仮定の話ったい♨」

 

 話が飛躍しつつある後輩を背中にして、律子はますますあせりの気持ちを強くした。そこでさらに胸倉をつかんでいる両手に力を込め、徹哉の頭をガクンガクンと前後左右に振りまくった。

 

「ちょっと! あんた正常に戻りなさいよぉ! ちょっとしばいたぐらいで一線越えちゃう人なんち、わたし聞いたことなかけんね!」


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