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『剣遊記 番外編Y』

第三章 美女が液体人間。

     (3)

「気ぃつけるとよ☢ こげなドアん鍵にはどげなトラップが仕掛けられとうか……そうやなか、絶対仕掛けられとうっち思うたほうがよかばい☠」

 

「は、はい!」

 

 まさに緊張の面持ちで、秋恵が鍵穴の前にコンパクトの鏡を出して、内部の様子を慎重そうに覗き込んだ。これにより、中にはなにも無い状態がわかった。続いて鉄製の短い針金を、ゆっくりと鍵穴に差し込む工程へと移った。

 

 特別な罠が仕掛けられていない程度なので、すぐにガチャッと、ドアの開錠は極めて簡単に終了した。

 

 これは新人の初めての成功。少々大袈裟ではあるが、律子は手放しで褒めちぎってやった。

 

「ようやったばい、秋恵ちゃん☆ まずは第一関門突破ばいねぇ☀」

 

「はい♡ いじくそうれしかです♡☺」

 

 初開錠に、手と手を取り合って喜び合う、先輩と後輩の女盗賊ふたり。そんな彼女たちをポカンとした顔で眺め、今度は徹哉が、開いたドアの鍵の穴を覗き込んでいた。

 

「ウーン、コノ穴ニハ特ニ、電子関係ミタイナ特別ナ装備ガ備ワッテルワケジャナクテ、単純デ原始的ナからくりミタイナモンガアルダケナンダナ。ボクナラコレヲ開ケルノニ、タブン一秒モカカラナイト考エラレルンダナ」

 

「なんね、そん言い草っち、それに『いちびょう』ってなんね?」

 

 なんだか自分がケチをつけられたような気になって、律子は徹哉に喰ってかかった。だけど当の徹哉は、相手の感情に気配りをする素振りなど、まったく持ち合わせてはいなかった。

 

「コレハ失礼ナンダナ。デハボクガ『一秒』ノ意味ヲ実践シテ見セルンダナ」

 

 徹哉は逆にそう言って、たった今秋恵が開いたドアとは別の、左横にあるやはり同じかたちをしているドアのノブを、左手でギュッと握り締めようとした。

 

 律子は思わず、ギョッとした気持ちになった。

 

「あっ! なんも確かめんで危なかばい!」

 

 しかし律子の忠告など、まるで聞く耳が無い感じ。徹哉はそのまま、ドアノブを強引に、ギュギュッと回した。恐らくドアには、鍵が掛かっているに違いないのだが。

 

 ところがガシャンッと、どのように見ても大した力を入れていなかった感じであるのに、徹哉がノブを握っている左手を、少し手前に引いたときだった。ドアがもろ簡単に、壁の枠からバタンと外されたのだ。

 

 早い話がドアを壊したわけ。


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