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『剣遊記 番外編Y』

第三章 美女が液体人間。

     (19)

 野蛮な連中から、思いっきりひどい目に遭わされたからであろうか。完全に秋恵の中で、なにかがフッ切れている感じ。野獣の群れから襲われている子羊の様相は今や消え失せ、その瞳は逆に、ある強い決意に満ちあふれた感じとなっていた。

 

「ホムンクルス……確かに初めて会{お}うたときから秋恵ちゃん、自分のことばそげん自己紹介してくれたばいねぇ✍✉」

 

 今になって律子も、その記憶を脳内から引き出した。ただ単に、ふだんの秋恵があまりにもふつう過ぎて、いつの間にか気にしなくなっていただけの話だったのだが。

 

「じゃ、じゃあ、あなたのホムンクルスとしての力ば、わたしにも見せてくれんね⛳⚠ あとでわたしの薔薇ん力も見せるけね☀」

 

 こちらも決意を固め直した律子は、周りのギャラリーどもを無視して言い切った。秋恵も間髪を入れず、律子に返答してくれた。

 

「はい! これがあたしの力ばってん!」

 

 ボロボロとなり、あられもない衣服の残骸を身にまとったまま、秋恵がその場で、大きくジャンプ! 自分を抑えている男どもを、簡単に吹き飛ばしながらで。

 

秋恵は男どもから襲われていながら、実はまだこれだけの底力を隠していたと言うのだろうか。

 

 それともこれも、一種の火事場の馬鹿力と言うべきか。

 

「げえっ!」

 

「嘘やろぉ!」

 

 ふたり(律子と秋恵)を襲っていた野郎ども十一人が、ただでさえ硬直していた自分の体を、さらに驚愕で固める結果となった。これでは相手に反撃のチャンスを、わざわざ自分たちから提供したようなものだ。

 

 実際、吹けば飛ぶような華奢{きゃしゃ}な体格の女の子が、自分の頭よりも高く跳ね上がったのだ。まさにそれこそ、ビックリしないほうがどうかしている話。だが驚くべき事態は、まだまだこれからであった。


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