『剣遊記 番外編Y』 第三章 美女と液体人間。 (15) せっかく逆立てた(?)髪を、律子はしゅんとした思いで、元どおりに肩より下へと下げおろした。それからあとは、形勢逆転のチャンスを、ジッと待つのみ。静かに歯噛みをしながら、律子は頭も下に向けた。男どもから両肩を抑えられている格好のままで。
「……せ、先輩……ど、どがんします?」
秋恵もそんな律子を右横から見つめつつ、ただ怯えている口調で尋ねるだけ。律子はこれに、口に出して言えるような、明解な答えがなかった。
(……そ、そうなんよねぇ☢ 今はわたしだけやのうて、秋恵ちゃんまで人質になっとうとやけ、やっぱわたしがなんとかせないけんばい♐ でも今は、こいつらの隙ば見つけるしかなかったいねぇ✄)
口中でつぶやくついで、廊下で倒れているままの徹哉にも、律子はそっと目線を移してみた。
背広の青年はいまだ、仰向けで床の上にのびている状態。ピクリとも動く気配はなかった。無論そのような頼りがいのない徹哉に、律子はちっとも可哀想だという気持ちが湧かなかった。
(……ったくぅ、肝心なときにいっちょも役に立たん男っち、この世にけっこうおるもんやけど、あげんずんだれとうのは初めて見るばいねぇ⛒)
失望の思いを完ぺきに丸出し。律子はあからさまにガッカリの瞳で、廊下の床に寝そべっているネクタイ青年を見つめ続けた。 (C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |